池上氏解説「新聞やテレビが報じない」情報の裏側 自身も記者時代に「地獄を見た」裏取りとは

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当時、あさま山荘には、住み込みで働いていたご夫婦の管理人がいて、夫は食材などの買い出しに出かけて留守でした。たまたま管理人の妻だけがいて、連合赤軍はその女性を人質にとって立てこもったんです。駆けつけた長野県警、さらには応援で警視庁からやってきた機動隊があさま山荘を取り囲みます。連合赤軍は機動隊に向けて発砲。機動隊とのにらみ合いが何日も続きました。最終的に機動隊が山荘の壁を壊して強行突入し、立てこもっていた犯人は全員逮捕され、人質は無事に救出されました。

その過程が、ずーっとテレビで生中継されたんですね。朝から晩まで、日本中が釘付けになりました。NHKと民放を合わせた視聴率は約90%を記録したといいます。

これを見ていた私は、「これからはテレビの時代かもしれない」と思いました。それまで新聞記者になってまずは地方で働きたいと思っていたけれど、NHKに入っても全国のどこかの放送局で仕事ができる。当時、コネがなくても受けることができるテレビ局は極めて少なかったんですね。多くの民放はコネがないと試験を受けることすら許されない状態だったのです。そこで私は誰でも受けられるNHKに願書を出し、試験を受けて、何とか内定をもらうことができました。

地獄を見た新米記者時代

NHKに入ると必ず全員、地方勤務からスタートします。新聞記者も同じです。私の場合、初任地は島根県の松江放送局でした。配属されるとまずは警察(サツ)回りが仕事です。どうしてだと思いますか? 2つ理由があります。

1つは、日本人は何かあると必ず110番をするでしょう。住宅街でサルが逃げ回っていても、イノシシが突然現れても110番する。警察を回っていると、町で起きているさまざまな出来事をいち早くキャッチできるんですね。もうひとつ、警察官というのは非常に口が堅いんですよ。当たり前ですけど、ぺらぺらしゃべらない。そういう口の堅い人からどうやって情報を得るか。どうやって信頼関係を築くか。結果的に取材力が鍛えられるということがあります。

ところが、全国に支局がない民放の場合は、東京で採用されると勤務地はずっと東京ですよね。東京の役所や警察というのは報道体制が充実していて、こちらから取材をしなくてもどんどん発表してくれるんですよ。自力で取材力をつけるのは大変です。初任地の松江放送局ではずいぶん、鍛えられました。

それでも松江放送局には職員が約100人いたんです。記者だけでも6人いる、カメラマンも2人いる。松江で3年間仕事をする中で、すべてを自分1人でやってみたいと思った私は、「通信部に行きたい」という希望を出しました。通信部は、あまりに労働が過酷なのでいまは働き方改革でなくなってしまったんですけど、放送局から離れたところに住み込んで、その地域全体の出来事を365日、24時間カバーします。

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