池上氏解説「新聞やテレビが報じない」情報の裏側 自身も記者時代に「地獄を見た」裏取りとは

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迷惑がかからないように、あるいはライバルの新聞記者に見つからないように離れた電信柱の陰に隠れてひたすら帰って来るのを待つ。住宅街、若い男が電柱の陰にずっと隠れているのですから、明らかに怪しいですよね。突然パトカーが目の前で止まり「君、ここで何をやっているんだ」と職務質問を受けるハメになったこともあります。取材源を知られてはなりませんから、「いや~、友達が帰って来るのを待っているんですよ~」なんて、とぼけたりしました。

さすがに365日毎日、待ち伏せるわけではありません。夏と冬のボーナス日、それからクリスマス、年末年始は嫌がられるので行かない。それ以外の日は行くんです。

実は表に出ないところで、警察担当は毎日、何としても情報を掴もうと血のにじむような苦労をしています。いまはさすがに働き方改革で、そこまではやらないでしょうけどね。

掴んだ情報の裏を取らなければ、ニュースにはできない

しかし、何か情報を得たからといってそれをすぐにニュースにすることはできません。捜査員から話が聞けたとしても、他の捜査員はまた別の情報を持っているかもしれない。事件の全体の構図の中で、掴んだ情報が本当に正しいのか。あるいはその情報は枝葉の部分で、あまり本質的なものではないかもしれない。それは捜査第一課長や刑事部長、全体を見渡している人に確認を取らないと、ニュースにはできないんです。

よくね、ネットで「なぜ、新聞やテレビは報じないんだ。何か意図があって隠しているんだろう」という言われ方をしますが、そうじゃないんだよね。確認できないからすぐにニュースにしていないだけなんです。

スクープをモノにしたと思っても「必ず裏を取れ」ということを徹底的に叩き込まれます。だから報道が遅れることはいくらでもあるのです。

一方、ライバルの新聞記者も取材しているわけだよね。特ダネを抜かれることもしばしばある。そうすると当直で泊まり込んでいた記者から朝の5時くらいに電話で叩き起こされ「抜かれてるぞ、すぐに追いかけろ!」と言われてしまう。

そう言われたって朝の5時に電話をかけるわけにはいかないでしょう。とりあえず6時ぐらいまで待って、恐る恐る捜査員の家に電話をします。「朝早くにすみません、NHKの池上ですが……」。すると寝ぼけた不機嫌な声で電話口に出てきた相手から、「何時だと思ってるんだ、このバカヤロー!」と、ガチャンと電話を切られておしまい。

受話器を握りしめたまま、何度涙を流したことか。2年間、地獄を見ました。そうするとね、もうそれ以降、世の中に〝辛い仕事〟っていうのがなくなるんだよね。

そもそも、「そういう仕事の仕方ってどうなの?」という議論はあるでしょう。でもそんな日々を重ねるうちに、結果的に警察より先に犯人に行きあたるなんてこともありました。

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