高度な技術とユーモア感覚を併せ持った幕末の陶工、仁阿弥道八(にんなみどうはち、1783~1855年)の展覧会が、3月1日までサントリー美術館で開かれている。タヌキやヤギを焼き物で表したユニークな作品について、学芸員の安河内幸絵さんに話をきいた。
仁阿弥道八は関東ではあまり知られていないが、京都を中心とする茶道界では昔から人気が高いのだという。京都の五条坂に窯を持ち、茶道具、食器、動物や人物の像などを焼いた。朝鮮、中国、オランダの器の写しも手掛けている。幕末の陶工として必ず名前が挙がるにもかかわらず、これまで単独で取り上げる展覧会はほとんどなかった。今回は玄人好みの茶碗も数多く出品されているが、ここでは動物と人間を模した焼き物を紹介したい。
茶室でひっそりと白目を剝く狸の炉釜
この『色絵狸炉蓋』は、僧衣をまとったタヌキがなぜか白目をむいて座っている。「炉蓋」とは、茶室で湯を沸かす炉の上にかぶせるものだ。
「炉の熱さに耐えかねて白目になってしまったのでしょうか。昔話の『分福茶釜』からの連想でタヌキにしたのかもしれません」と安河内さんは語る。
いくらくんでも湯が尽きない不思議な茶釜。実はタヌキが釜に化けていたというのが『分福茶釜』のお話だ。
茶会のときは炉に茶釜をかけて湯を沸かすから、炉蓋は使わない。つまり、炉蓋は客の目に触れるものではない。人けのない茶室にタヌキはポツンと座っていたのだろうか。
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