東大教授が熱弁「キングダム」が経済学的に深い訳 経済学者・小島武仁氏が64冊一気読みして分析

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現代と『キングダム』の世界の共通点を1つ挙げると、「経済成長の停滞」があります。もちろん2000年前の中国と現代は違いますが、当時の中国では500年間も戦国の世が続いていて、その間、人々の生活レベルはほとんど上がらないままだった。

経済成長しない、つまりパイが増えないことが前提になっていて、しかも厳しい身分制度の下で将来が決められてしまう。だから、人々が自分の力で生活をよくしようというときには、軍に入って武勲を上げ出世を目指すという話になる。主人公の信も、序盤に「大将軍」を目指すという夢を語るシーンで、それが実現することに伴うよい暮らしを思い描いています。

『キングダム』第1話より(©原泰久/集英社)

歴史においては経済成長しない時代のほうが普通

――経済成長のない時代に起こるのは、パイの奪い合いということになるのでしょうか。

そこは難しいですね。しかし、経済成長の行き詰まりが見えてきた今、考えるべきことは多いと思います。

産業革命などを契機に、以降の経済が大きく伸びた歴史はありますが、実は、経済成長によって生活水準がどんどん向上していくというのは、歴史においてはむしろ異常事態。

経済成長しない時代のほうが普通だった。論争はあるようですが、経済史家の間でも19世紀の終盤から1970年代ぐらいまでを「外れ値」とする見方のほうが強い。

日本では最近、過去30年ほどの経済成長率の低さが問題視されているわけですが、この間、ほかの先進国の成長率もそう高くはない。歴史家に言わせると、「なぜ今、経済成長できないのか」という問いはある意味では間違っていて、「20世紀後半の経済成長率がなぜ異常なまでに高かったのか」のほうが、説明を要する問題だと。

コンピューターチップの性能が1年半で約2倍に上がるという「ムーアの法則」は有名ですが、性能を2倍にするための効率は、時間が経つほどに悪くなっているという話もある。同じスピードで性能を上げるために投入される研究開発費は、昔と比べものにならない。伸びている間も、実はコスト比では頭打ちに近くなってしまうという技術もあります。経済成長そのものについても、同じことがいえるのかもしれません。(後編に続く)

『漫画「キングダム」(第1話)身の丈を超えた野望』はこちら

山本 舞衣 『週刊東洋経済』編集者

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やまもと まい / Mai Yamamoto

2008年早稲田大学商学部卒業、東洋経済新報社入社。データ編集、書籍編集、書店営業・プロモーション、育休を経て、2020年4月『週刊東洋経済』編集部に。「経済学者が読み解く現代社会のリアル」や書評の編集などを担当。

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