創業300年・中川政七商店が「違う土俵」へ行けた訳 山口周さん×中川淳さん対談(1回目)
ビジネスの世界で注目される「ビジョン」
山口:いまビジネスの世界では、組織が追求すべきビジョンを掲げることの重要性や、それをいかにつくるかということが注目され、さまざまに議論されています。それは、資本主義や企業活動そのものが21世紀に入った頃から大きな転換期を迎えているからでしょう。
もちろん、企業は利益が出なければサステイナブルに活動できません。これまでは、環境を破壊するような大量消費社会のなかで利益を出すことで、かろうじて経済が成り立ってきました。その状態から、どうやって社会を次のステージに持っていけばいいのか。中川政七商店は、ビジョンファーストで、この問題に会社として思い切りチャレンジしているわけです。
中川:うちの会社はかなり独自な形でやっているし、業界としても非常にニッチなので、お手本にできるような会社が世の中にあまり見当たりません。
たとえば中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げていますが、この言葉だけを見ると、お客さんのほうを向いていない。僕自身はそのほうがいいと思ったからこれを会社のビジョンにしましたが、たいがいどの会社もお客さんのほうを向いた言葉を掲げています。
山口:たしかに、言われてみればお客さんに向いてないですよね。
中川:そうなんですよ。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンは、完全に商品のつくり手のほうを向いた言葉です。もちろん結果的には、元気になったメーカーからお客さんのところに価値のある物が届くわけですが、そこは言葉にしていないんですよね。