創業300年・中川政七商店が「違う土俵」へ行けた訳 山口周さん×中川淳さん対談(1回目)

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山口:僕は最近「クリティカル・ビジネス」のことを考えているんです。日本で最初に明確な形で現在進行形のビジネスや経済のあり方に対するオルタナティブの提案を行なったクリティカル・ビジネスは、おそらく「無印良品」でしょう。近年では、テスラが代表的なクリティカル・ビジネスですね。

中川政七商店も、オルタナティブの提案をやっている会社だと思うんですよね。

中川:僕の場合、たまたま戻ってきた家業がオルタナティブでクリティカルなビジネスだったわけですが、それがワークした最大のポイントは、ビジョンをうまく掲げることができたところだと思います。

だから、どこの講演でも必ず「きれいごとじゃなくて本当にビジョンが効いてるんだ」という話をします。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンがあったからこそ、いまの中川政七商店がある。それは心の底から思ってますね。ビジョンがあったからコンサルティングも始まったわけですし。

ビジョンを掲げるとやるべきことが決まる

山口:ビジョンを掲げると、そこからトップダウンで、やるべきこと、やるべきではないことが決まりますよね。

僕はピーチ・アビエーションという格安航空会社のお手伝いもしているんですが、10年ほど前に当時CEOだった井上慎一さんから「人事制度づくりを手伝ってほしい」と声をかけられたときは、そのビジネスに対してかなり懐疑的だったんです。すでにデフレにうんざりしているときだったので、「また安くするのか」と思ったんですよね。

それで最初に「井上さんは、この会社を何のためにつくったんですか」と質問したら、「僕は戦争をなくしたいんですよ」と言うんです。格安航空会社と戦争に何の関係があるのかわからないじゃないですか。

中川:たしかに、意表をつく答えですね。

山口:聞くと、井上さんは「若いうちに外国に行ってそこの文化に親しんだら、爆弾なんか落とせないでしょ」と言うんです。だからお金のない若い人たちがどんどん外国に出て行って人々と交流できるようなインフラをつくりたいんだ、と。僕もそういう話は好きなので、懐疑的な気持ちは消えて、「ぜひお手伝いさせてください」となりました。

すると井上さん、念を押すように「うちは格安航空会社なんですよ」と言うんですね。だから僕も「子どもでも乗れるわけですよね。すばらしいビジョンだと思います」と答えたんですが、「格安航空ということはコストも格安ということなんです」と(笑)。

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中川:なるほど!(笑)

山口:この流れで「だからコンサルフィーも格安にしないとまずいですよね。この見積もりの3分の1でやってもらえませんか」と言われたら、反論できないわけです。反論できないどころか、喜んで一緒にやらせてほしいと思ってしまう。共感できるビジョンには求心力が働いちゃうので、経営資源が集まるんですよ。

言葉を掲げるだけでゼロから経営資源を集めてしまうだけの力を持っているのが、ビジョンのすごいところです。企業が競争力を高めるうえで、これからはビジョンがもっとも重要になるでしょうね。いまいちばん希少な経営資源は、働くためのモチベーションですから。

(対談2回目に続く)

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