看護の日に考える「あえて人に触れる病院」の真意 愛媛県今治市・美須賀病院「て・あーて」の挑戦

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2014年、重見総看護師長は、川嶋氏が東京で主催した「て・あーて塾」に参加。毎月2日間行われる講座に半年通った。そこで学んだ看護の概念やケアの方法を重見総師長が院内の看護師全体に伝え、広めていった。

院内の各所に「て・あーて」の貼り紙がある。オイルマッサージに挑戦する患者の家族も多い(写真:筆者撮影)

毎日15分、看護師が患者に行う「て・あーて」は、看護師の業務の一環として個々の患者に対する「看護計画」に組み込まれ、病院全体として患者に触れる看護を実現している。「て・あーて」の意義について、一般病棟の村上康浩師長(47歳)は、こう話す。

「むくみの改善は目に見えるため、看護の結果が可視化され、やりがいにつながります。患者さんに良くなって帰ってほしい。その手伝いをするのが看護師です。『て・あーて』によって、患者さんにしてあげられる看護の引き出しが増えました」

愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンが分泌される

肌と肌が触れ合うことで、いわゆる愛情ホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」が分泌されることは、産科や小児科の領域でも注目されている。これは赤ちゃんと大人の関係だけに留まらず、医療者と患者の間でも同様の効果があるとされている。患者の不安や苦痛を解消するとともに、看護師にとっても癒しとなっている。療養病棟の壷内広美主任(57歳)は、こう話す。

「療養病棟は入院期間が長く、一層と寄り添う看護が求められます。そっと『フェザータッチ』し、くつろいだ雰囲気のなかで患者さんと話す。冷たかった患者さんの手足がだんだん温まり、同時に自分の手も温まっていく。自分も癒される瞬間です。ベッドサイドでケアができると、患者さんが一人の個人として存在していることを日々、実感できるため、患者さんの尊厳を守ろうという看護への意識が高まります」

ベッドサイドでのケアは、異変の早期発見にもつながる。

「血圧や血中酸素飽和濃度の数値だけでは分からないこともあります。数値が正常でも、『今日は何かおかしい』『ちょっと痰がからんでいるな』と感じた時、医師に報告して検査すると肺炎を起こしている場合があります。早期の対応ができれば薬で治すことができますが、機器の数値だけ見て患者さんを看ていなければ、そうはいきません。気づいた時には重症化し、手遅れということもあるかもしれない。常にベッドサイドで患者さんを看る時間があるからこそ、気づく異変があるのです」(壷内さん)

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