看護の日に考える「あえて人に触れる病院」の真意 愛媛県今治市・美須賀病院「て・あーて」の挑戦

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温かいタオルで背中を保温する「熱布バックケア」で症状が改善する(写真:筆者撮影)

「〇〇さんは、熱布バックケアを受けるようになってから、痰がからまずに出るようになって、食欲も増したのですよ」と、看護師が説明する。一時は意識が薄れて絶食状態となり看取りの覚悟もしていたが、スタッフの予想を超える回復を見せたという。

疾患や認知症の影響で不機嫌になりやすい患者でも、熱布バックケアをすると落ち着き、気持ちよく眠ることができる人が多いという。この「熱布バックケア」は、背面のケアとなるため看護師と患者の顔が対面しないことから現在、コロナ禍のなかでも感染予防しながら行えるケアとしても注目されている。

「腹臥位療法」は、別の病院でもコロナによる肺の症状改善につながると現場で取り入れられている。愛媛県立医療技術大学が今年行ったセミナーでも「腹臥位療法」の一環として美須賀病院の熱布バックケアの取り組みが紹介されるなど、ケアの広がりが期待されている。

自然治癒力に働きかけるのが看護の原点

美須賀病院が「て・あーて」を取り入れたきっかけは、前述した川嶋氏の「その人の固有の自然治癒力に働きかけるのが看護の原点」という考えに、重見美代子総看護師長(66歳)が触発されたことにある。

看護師の仕事は「保健師助産師看護師法」の第5条に規定され、「療養上の世話」と「診療の補助」がある。医師不足で医師の医療行為の一部が看護師に移譲され、今や看護師の業務は診療の補助が中心になりつつある。川嶋氏のいう看護の原点とは、患者が自分らしく生活できるよう援助する療養上の世話にある。

ただ、慢性的な看護師不足のなか、多くの病院で看護師は長時間・過密労働の状態にある。患者の在院日数が短いほど病院の収入が増える診療報酬の仕組みのため、患者はすぐ転院していく。じっくり看護することができず、療養上の世話は忘れ去られつつあるのが現状だ。

経営効率を求めるあまり「病院の収入につながらない入浴はしなくていい、患者の身体も拭かなくていい」と看護師が命令を受ける病院が散見されるほど、殺伐としている看護現場もある。そして多くの病院で、医療的な専門分野をもつ「認定看護師」などの資格取得を推進し、専門的なスキルを活かすことが「魅力ある看護」とうたって看護師確保に努めているが、重見総看護師長の見方は違った。

「患者さんの生活を支える看護師はジェネラリストであるべきです。そして、何も科学的な根拠だけが絶対ではないはず。気難しい患者さんが熱を出した時に『額を冷やして欲しい』と言い、そうすると翌日、ありがとうと言ってくれたことがあります。医学的には額を冷やしても熱が下がるわけではありませんが、心地よい刺激が、患者さんの治る力を引き出す。それが『て・あーて』で、地域に求められるケアだと確信したのです」(重見さん)

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