日銀には「21世紀型の金融政策モデル」が必要だ 世界中の中央銀行の金融政策は今や「時代遅れ」

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21世紀に入って、金融市場はつねに混乱している。「テックバブル」(ITバブル)崩壊、「サブプライムバブル」「世界金融バブル」、そしてその崩壊(リーマンショック)。その後は、世界中で「量的緩和バブル」が起き、すぐに欧州危機(ギリシャ危機からEU全体の危機へ)となり、「ユニコーンバブル」、「GAFAMバブル」。これらのバブルも崩壊寸前となったが、そこへ「COVID-19バブル」(コロナバブル)となった。

そして、今は、そして急激なインフレからの金利急上昇で、再度バブル崩壊懸念が起き、そこへロシアのウクライナ侵略が起きた。

ウクライナ以外は、すべて金融政策がバブルとその崩壊の犯人である。その構造も、すべてのバブルに共通しており、かつ極めて単純であり、金融緩和をやり過ぎたことにより金融バブルが生じている。

21世紀の不況のほとんどは、バブル崩壊により生じたものであり、景気安定化、雇用の安定性という観点からも、金融市場の健全化(安定化)、バブル抑制が最優先課題となるのである。

景気刺激達成時には資産市場が過熱する

ここで問題なのは、なぜ、金融緩和をやりすぎてしまうのか、ということである。

実はその理由は単純で、金融政策のターゲットが物価であるからだ。そして、物価は景気が過熱しても上昇しにくくなっているから、バブルを抑制するためのバロメーターにはなりえなくなってしまっており、金融緩和は、物価を動かさないだけでなく、景気に影響を与えるよりも先に資産市場を素早く、しかも大きく動かしてしまうから、景気刺激という目的を達成したころには、資産市場はより激しく過熱してしまっているのである。

これは前述したとおりである。したがって、21世紀の金融政策においては、物価を第1の直接のターゲットにすることをやめないといけないのである。物価はあくまで1つの指標であり、資産市場の動向は少なくとも物価の動向と同等に(実際にはそれ以上に)注視しなくてはいけないのである。

これまでも、バブルへの対応は金融政策の重要な論点であったが、近年は「バブルは崩壊してから妥当な金融政策を行えばよい」、といういわゆるFEDビューというものが中央銀行を支配していた。

これは、アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンらが、1930年代の大恐慌の原因は、1920年代末の株式市場のバブル崩壊にあるのではなく、その後の、中央銀行の金融緩和の終了が早すぎたこと(金融を引き締めたこと)、マネーサプライの減少が原因であると主張し、この見方が力を持ったからである。

一方、「BIS(国際決済銀行)ビュー」というものも存在する。これは、バブルの膨張を抑えることが、バブル崩壊による金融市場、金融システムの混乱による経済の混乱、不況を防ぐために重要である、というものだが、こちらは、2008年の世界金融バブル崩壊までは、現実の政策に対して影響力を持つことができなかった。

これは「いったんバブルが始まってしまうと、それをつぶすことはできない。もし膨張を抑制しようと金融を引き締めれば、それによりバブルは崩壊して中央銀行がバブル崩壊の犯人とされてしまうため、現実的には中央銀行はバブルを抑制できない。政府、政治も同様である」という古くからの経験則が有効であった。

しかし、現実社会においては、フリードマンのマネタリズムの影響力が学界も政策マーケットも支配してしまい、バブルの事前の抑制はないがしろにされていった。

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