がん末期39歳女性「この子といたい」と選んだ治療 AYA世代にも必要「在宅ケア」とはどんなものか

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在宅医療というと、いざというときに医師や看護師が不在で、急な体調の変化に対応できないのではないかと不安に思う患者さんや家族も少なくありません。ですが、「在宅療養支援診療所」として地方厚生局から認可されている診療所に依頼すれば、何かあったら24時間連絡を取ることができ、必要なら往診できる体制も整っています。

私が院長を務める向日葵クリニックも在宅療養支援診療所の認可を受けていますが、自宅で最期まで過ごすことを考えるなら、こうした体制が整っている診療所を選ぶと、患者さんにとっても家族にとっても安心につながると思います。

在宅医療のもう1つの柱が訪問看護です。訪問看護師は、医師の指示のもと行う医療処置に始まり、生活全般におけるケアや相談など、在宅療養における暮らし全体を見るプロともいえます。こちらも24時間体制の訪問看護ステーションに依頼すると、緊急時にも駆けつけてもらえます。

がん特有の痛みも自宅でコントロール

がんで生じる特有の痛みも、病院と同様に自宅でもコントロールすることができます。例えば「すぐに診てもらいたいというほどではないが、この痛みは少しつらいかもしれない」というときに、病院の医師に相談するのはハードルが高く、次の診察の予約まで何とか頑張ろうとする方が少なくありません。

ですが、在宅医療であれば些細なことでも医師や看護師に24時間相談できる体制が整っていることから、不安や我慢も短時間で解消しやすい側面があります。加えてコロナ禍で入院すると、なかなか家族との面会がかなわない現実もあります。

こうした在宅医療についての説明を通して、Aさんは通院しながら並行して、在宅医療を受けることを決めました。

その頃、婦人科の担当医からも、「もう使える薬がない。抗がん剤での治療はこれ以上難しいだろう」という話がありました。その話を受け、「思うように身体が動かなくなる日は、そう遠い先の話ではないのかもしれない」とAさんも感じたようです。

最愛のお子さんと過ごす時間を思えば、どこで過ごすかという答えは自ずと出たようでした。「家族と一緒に家で過ごしたい」。そう口に出したときから、Aさんの在宅療養生活の一歩が始まりました。それは私が、Aさんの余命は、あと半年ほどだろうと踏んだタイミングのことでした。

医師が患者宅を訪れる訪問診療は、患者や家族と話し合って決める「診療計画」に基づいて行います。診察時間の目安は、初診が1時間〜1時間半前後、以降は症状が安定していれば1回15〜30分程度。ときに“5分診療”と揶揄されることもある病院の外来診察よりも落ち着いてじっくり診てもらえることは、患者さんにとっても大きな安心感につながるようです。

また、病院の診察室ではどこか緊張気味な患者さんが多い一方で、慣れ親しんだ自宅の空間が診療の場となる在宅医療では、どこかくつろいだ状態で医師と向き合っている患者さんの姿があります。Aさんの訪問診療も、そばで子どもがおもちゃで遊ぶのを眺めたり、ときどき子どもに声を掛けたりしながらの時間でした。

診療中、子どもを見ながら「この子とずっと一緒にいたいな」と話していたことを思い出します。

「もし動けなくなっても、先生や看護師さんに手伝ってもらって、最期の最期までこの子といたい」Aさんはそう言って、「家で亡くなりたい」という選択をしました。

がんの終末期になると、徐々に体が動がなくなってきます。Aさんも1カ月前までは、自分で近くのスーパーに買い物に行って料理をするなど、自立した日常生活が送れていました。しかし徐々に体力が落ち始め、思うように食べられない日が続くようになりました。

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