質の高いトップ10%の論文でも中国は急成長しているが、まだ英独の半分程度だ。しかし、すでに日本は抜いた。そして伸び率が極めて高いので、いずれ英独を抜くだろう。
各国の論文数が伸び悩む一方で中国が急成長しているので、遠からずアメリカを抜いて世界一の座につくだろう。フィナンシャルタイムズ(10年1月25日)は、中国の論文数が急速に増加していること(81年と比べ64倍になった)、とりわけ化学と材料科学で強いことを指摘し、20年には全分野で世界のトップになるだろうと予測している(なお同紙は、研究資金の削減のためロシアの伸びが低くなり、ブラジル、インドより論文数が少なくなったことも指摘している。私の学生時代、ソ連はアメリカと並んで自然科学をリードしており、物理学や数学にはソ連で出版された専門書の翻訳や海賊版があったことを思うと、隔世の感がある)。
これは、ここ数年の間に起こった急激な変化だ。中国はGDPで日本を抜いたことが話題を呼んだが、人口が10倍の国のGDPが日本より大きくなるのは当然のことだ。それよりも論文数のほうが重大な変化である。
大学ランキングでも同様の傾向が見られる。イギリスの教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』(THE)が10年9月に発表した「世界大学ランキング」によると、上位200校に入った日本の大学は、前年の11校から5校に減った。それに対して、中国(香港を除く)は6校となり、日本を抜いてアジア1位になった。
日本経済の方向付けを考えるときにわれわれが見るべきデータは、「中国の自動車販売台数が世界一になった」とか、「中国に膨大な数の中間層が現れる」ということではない。そこには、総人口の大きさが強く影響しているのである。そして、中国の貧しさが隠されている。それを見抜けずに「これからは中国だ」と考えれば方向を誤る。
見るべきは、論文数の推移に象徴されるような状況なのである。それが示している世界の姿は、次のようなものだ。
(1)アメリカが依然として圧倒的に強く、他国を引き離している。
(2)中国が急成長しており日本を抜いた。指標によっては英独をも抜いた。そしていずれアメリカを抜くかもしれない。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年2月5日号)
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