しかし前回述べたように、この方向を取るのは危険だ。なぜなら日本は高所得国であり、中国は低所得国だからだ。高い賃金で作ったものを所得の低い人々に売ろうとしても、もともと無理なのである。ここには比較優位の視点がまったく欠落している。最低限、工場を新興国に移して安価な労働力を使う必要がある。
日本が目指すべき方向は、いま中国に出現しつつある新しい世代の能力を活用することである。つまり中国を知識労働者の供給国と見なすことだ。
このように考える基本的な理由は、中国人の若い世代に、極めて優秀な人材が出現し始めたからだ。これについて述べよう。
中国人材の質に地殻変動が起きた
1970年代まで、ほとんどの中国人は教育を受ける機会を奪われていた。文化大革命で紅衛兵が学校制度を破壊し、68年から10年間、約1600万人の若者が農村や辺境に下放された(上山下郷運動)。知識階級の子弟も下放された。ユン・チアンの『ワイルドスワン』を読むと、その状況がよくわかる。大学は閉鎖され、知識階級が撲滅されたのである。
私はこの世代の人々を知っている。80年代に一橋大学の私のゼミにも留学してきたのだが、基礎教育をまったく受けていないため、指導のしようがなかった。
しかし、それから20年後の04年、スタンフォード大学の私のクラスに現れた中国人学生は、まったく別人種であった。日本語も英語も非常にうまい。能力も高いし意欲もある。中国の人材に画期的な変化が起きたことを、そのときに思い知らされたのである。