中国の「やられたらやり返す」戦狼外交が抱く難問 西側民主主義陣営に対して宣伝戦を強化する事情

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習近平のこうした世界観は一貫している。共産党総書記就任翌月の2012年12月、広東省を視察した際の内部講話で、ソ連崩壊の教訓をくみ取るべきだと訴え、2013年8月に開いた「全国宣伝思想工作会議」で西側とのイデオロギー思想闘争に敗北すれば、政権の瓦解につながると危機意識を強めた。

西側イデオロギー浸透への懸念は、習近平以前の歴代指導者も有していた。習近平が異なるのは、ソ連と同様に「亡党亡国」してしまう(党も国家も滅びる)ことへの深い危機感を隠さないことだ。

もう1つは、危機感の一方で、習近平は、中国がアヘン戦争以降の100年間にわたる「屈辱の歴史」から立ち上がり、「中華民族の偉大な復興」を実現するという歴史観に強く固執していることだ。だからこそアメリカを追い抜くほどの「強国」として世界経済を支える総合国力を持つにもかかわらず、それに見合う評価を国際社会から受けておらず、いまだ「偏見」を持たれている現実にいら立ちを強めている。

その習近平の不満が、「もう中国は馬鹿にされない。やられたらやり返す」という根本的発想を持つ「戦狼外交」を後押ししている。米欧日からの「言われっ放し」を許さない国民のナショナリズムに応える「戦狼外交」は一定の支持を得ている。

しかし習近平は、ウクライナ危機で鮮明になった西側民主主義陣営の「結束」を打ち破らなければ、「中華民族の偉大な復興」実現のために欠かせないとする台湾統一の「悲願」もおぼつかないと認識しているのは確実だ。「戦狼外交官」の代表格である趙立堅外交部副報道局長は3月18日の定例記者会見で、アメリカが「虚偽情報を絶えずまき散らし、中国の顔に泥を塗っている」と反発したが、「屈辱の歴史」を想起させることで国民のナショナリズムも鼓舞し、「戦狼外交」を武器に西側民主主義陣営への「宣伝戦」「情報戦」を強化するだろう。

トランプ「ツイッター政治」に対抗

「戦狼外交」は、王毅国務委員兼外交部長の習近平に対する「忖度」で展開されているとみていい。日本通であるがため「弱腰」批判に神経を尖らせる王毅としては「強い外交部」をアピールする好機ととらえている。

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