王毅は外交部長就任から1年後の2014年3月の記者会見で「新時代の中国外交」について「われわれには気骨が必要だ。気骨の起源は民族の誇りだ。近代以来100年間の屈辱の歴史は永遠に過去のものとなった」と語気を強めた。
中国外交の「戦狼化」が顕著になったのはその直前の2013年12月、安倍晋三首相が靖国神社に参拝したことを受け、駐外大使が、一斉に「歴史戦」のため任地国のメディアを舞台に対日批判を組織的に展開した時だ。習近平も、「中国の特色ある大国外交」が提起された2014年11月の中央外事工作会議で、「大国外交」のあり方として、「『気概』のあるものにしろ」と指示した。
「戦狼」は、2017年に中国で大ヒットした愛国アクション映画「戦狼2」が起源だが、「戦狼外交」と名付けたのは2019年7月17日のイギリスBBC放送(中国語版)の記事とみられ、記事はその直前の同月13日、ツイッター上で、スーザン・ライス元アメリカ大統領補佐官と応酬した趙立堅駐パキスタン臨時代理大使を取り上げた。趙は駐米大使館書記官時代の2010年5月から、中国国内で規制されるツイッターを駆使。西側の言論空間に向けて「モノ言う」希有な外交官だった。ライスに対して、アメリカ内の黒人差別を指摘し、「恥知らずな人種差別主義者だ」と批判されると、さらに「あなたこそ恥知らずだ」と反論した。
中国外交の「戦狼化」は、「ツイッター政治」を徹底したアメリカのトランプ前大統領の登場によって一線を越えた。米中貿易戦争は2018年3月に始まるが、2019年に入ると米中対立はファーウェイ、香港、新疆ウイグル自治区などの問題をめぐり拡大を続けた。
新型コロナの発生源をめぐって物議
こうした中、2019年8月、スーザン・ライスとやり合ったばかりの趙立堅が、報道局副局長に異例の抜擢。トランプの対中強硬発言に対抗するため、ツイッターという西側の言論空間で闘う外交官が必要との認識を持つに至った。2020年3月には、新型コロナウイルス発生源をめぐり趙立堅はツイッターで「アメリカ軍が武漢に持ち込んだ可能性がある」とつぶやいて物議を醸し、「戦狼外交」は名実ともに定着した。
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