中国の「やられたらやり返す」戦狼外交が抱く難問 西側民主主義陣営に対して宣伝戦を強化する事情

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同時に中国の外交官たちは相次ぎツイッターアカウントを開設。2019年10月には華春瑩報道局長ら多くの有名外交官がツイッターを始め、多くの在外公館も2020年前半までに一斉にアカウントを開設した。外交部にはツイッターを使った「戦狼外交」の実践が評価される空気があり、北京向けに実績をアピールしようする外交官が多いことが背景にあるとみられる。

高まるナショナリズム、止められないジレンマ

日本国内での「戦狼外交官」として知られるのは、2021年8月からツイッターを始め、大量の投稿とリツイートを繰り返す薛剣大阪総領事だ。アフガニスタンから撤収するアメリカ軍機にしがみつき、振り落とされる現地人の姿を揶揄した画像をツイートしたり、アムネスティ・インターナショナルの香港事務所の閉鎖を「害虫駆除」とつぶやいたりし、反米感情と反西側民主主義をむき出しにした発信が注目され、フォロワーは3万人を超えた。

「反米」はほかの「戦狼外交官」と同じだが、異なる特徴も多い。

(1) わかりやすい日本語で発信している
(2) 日中友好重視で、日本への批判を控えている
(3) 「現場主義」「親しみやすさ」「ユーモア」を笑顔で演出している
(4) 日本メディアが伝える否定的な「中国」と異なる「中国イメージ」と「中国理解」を形成しようとしている

などだ。フォロワーからの質問に応じる「何でも答える」企画や日本人限定の新疆ウイグル自治区ツアー案内など、「硬(ハード)」な側面だけでなく「軟(ソフト)」面も織り交ぜた新たな「戦狼外交」を実践している。

世界の対中イメージを悪化させ、国際社会との緊張を生んでいる「戦狼外交」は今後、どう展開するのだろうか。崔天凱前駐米大使は2021年12月の講演で、対米関係を念頭に「実際の闘争で彼らに勝つだけでなく、人格面でも打ち破らねばならない」と述べ、「戦狼外交官」を批判した。外交部内には弊害を懸念する声が多いことを浮き彫りにした。

しかし習近平は、国民にナショナリズムをあおった結果、ナショナリズムに縛られる現実の中、「戦狼外交」を継続せざるをえないジレンマも抱えている。一方で、ウクライナ危機を受け、民主主義陣営の足並みの乱れも見逃さず、アメリカと距離を置く国を取り込む狙いもあるとみられる。中立的な東南アジアや中東、アフリカとの関係を固め、日欧にも接近し、西側民主主義陣営に揺さぶりをかけてくる可能性が高い。(敬称略)

(城山英巳/北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授)

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