ハローワークに通い詰めたが、コロナ禍で求人は減り、1年たっても仕事は見つからず、「訪問ヘルパーなら就職口はある」と言われた。福祉は女性の低賃金を想定して仕組みができている、その結果、高度な福祉資格が逆に女性の就職の壁になっている、と思った。
これまで就いていた会計年度任用職員なら、仕事がないわけではなかった。だが、「もう嫌だ」という思いが先に立った。
そこでは、専門性が尊重されず、正規職員の昼食を買いに行くなどの雑用を引き受けさせられた。相談者から暴言やセクハラめいた電話がかかってきても、非正規は守ってもらえなかった。「ワークライフバランス」を合言葉に正規は土日に休み、その穴を埋める非正規は、週末出勤となった。
「2級市民みたいな思いはもうしたくない。資格を女性の就労に結び付けたいなら、まず行政から、女性が多い福祉などの公的な分野での資格者に、安定雇用と生活できる賃金を保障する必要がある」と、橋本は言う。
こうした土壌の改革なしでは、就職相談員も安心して支援できず、ハローワークは機能できない。ここでは「派遣会社の訓練」も、業界の増益には貢献するが、女性たちの安定雇用は保障しない。実際、訓練後も非正規しか見つからず、とりあえず「ウチで派遣になっては」と「就労支援」された末、派遣契約を打ち切られて困窮した例もある。
使い捨て的な「半雇用」が多い
橋本も下川同様、職場のゆがみを感じながら、口にできずに来た。夫からのDVなどによって自信を失い、職場での仕打ちはパワハラではなく自分に問題があるせいと思い込んできたからだ。それを指摘できるようになったのは、当事者の立場からDV被害者を支えるプログラムに参加してからだ。
女性の労働市場は、非正規など、使い捨て的な「半雇用」が多く、正規でも似たような低待遇は少なくない。こうした職場では、パワハラやセクハラ被害も多い。
また、子育て中の女性は、コロナ禍で休校や保育園の休園がいつ来るかわからず、企業に気を遣って求職活動をあきらめてしまう例もある。公的職業訓練も、休まずに来ることが原則とされているため、「子どもの感染で休むかもしれないと思うと受講をためらう」という声も聞いた。
橋本が参加するプログラムを主催する「エープラス」の吉祥眞佐緒・代表によると、暴力に遭った女性たちは、相手に服従して自分を責める態度に慣らされ、そんな悪条件の改善を求める声を飲み込んでしまいがちだ。同時に、被害女性たちは人権侵害には人一倍敏感で傷つきやすい。その結果、心が折れて自主退職に追い込まれる。
働き続けるには、就労支援や労働相談にDV対応の学習プログラムを入れ、女性たち自身が対抗力をつけることが必要という。
半雇用、DV被害、子育ての壁。これらの狭間で行き悩む女性たちに対し、「労働移動」の達成度を競うばかりの手法は、むしろ危うい。安定雇用を原則とする労働市場改革、女性や子どもを支える専門職の経済的自立策、DVなどの暴力への対抗研修といった、女性たちの現実に根差した根本的な就労支援策が問われている。
(文中敬称略)
第1回:「夫セーフティネット」崩壊が突きつける過酷現実
第2回:夜の街で働く女性襲う「個人事業主扱い」横行の罠
第3回:妊娠した技能実習生に「官製マタハラ」の冷酷現実
第4回:コロナ禍で社会支える「非正規公務員」悲惨な待遇
第5回:「女の仕事と軽視」保育士語るコロナ禍の異常労働
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