困窮女性へのコロナ給付阻む「世帯主の壁」の正体 「家制度」の残り香、必要な支援が届かない

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「受給権者は世帯主」としたことで大きな波紋が広がりました(写真:森田直樹/アフロ)
コロナ禍は「女性不況」と呼ばれるほど女性に深刻な影響を与えています。女性の非正規労働者はコロナの感染拡大前より減少。路上に出たり炊き出しの列に並んだりする女性もなお目立ちます。
ところが、女性の失業率は男性を下回り続けるなど打撃の大きさは表面化しておらず、「沈黙の雇用危機」の様相を示しています。いったいどういうことなのか。
貧困や非正規雇用の問題を報じてきたジャーナリストの竹信三恵子さんは、「働く女性の訴えを抑え込んでいく『社会の装置』がある」と言います。その「装置」の実態について、竹信さんが女性の働く現場からさぐっていきます。

コロナ禍では、非正規を中心に大量の女性の雇用喪失が起きた。生活支援のため、政府が一律1人10万円の支給を決めた「特別定額給付金」や、18歳以下の子どもたちに対する所得制限付きの「子ども給付金(子育て世帯への臨時特別給付)」は、そうした女性や母子世帯にとっての命綱になるはずだった。

だがそれらは、助けが必要な人々に必ずしも届かず、女性たちの雇用危機をより深めた。背景にあったのが、「世帯主の壁」という装置だ。

特別定額給付金の支給までに約1年9カ月

今年1月、鈴木明奈(仮名、30代)は胸をなでおろしていた。別居中の夫の口座に振り込まれていた特別定額給付金のうち、鈴木と子どもの分の20万円を2人に支払うよう命じた熊本地裁の判決が、ようやく確定したからだ。「迅速な支給」をうたったこの給付金が始まってから、約1年9カ月がたっていた。

鈴木はコロナの感染拡大が始まった2020年1月、「里帰り」中の親戚の家で、初めての子どもを出産した。出産までの別居期間中、自分や子どもへの夫の対応に不信感が強まり、話し合いの末、2020年4月に離婚することでほぼ合意が成立した。その月、政府による特別定額給付金の支給が閣議決定された。

特別定額給付金は、コロナの感染拡大による経済的影響への緊急経済対策の1つで、基準日(2020年4月27日)に住民基本台帳に記録されている全員に、1人10万円を支給する制度だ。「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う」を目的に、「受給権者」とされた住民票上の世帯主に、家族分をまとめて支給する仕組みだ。

離婚がはっきりしなかったこともあり、鈴木は住民票を移しておらず、「受給権者」は世帯主の夫となった。

DV被害で夫から逃げている女性については「世帯主」でなくても申請・受給できる特例ができたが、鈴木は「DV被害者でなく、世帯主でもない」として役所に対応してもらえなかった。

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