コロナ禍では、非正規を中心に大量の女性の雇用喪失が起きた。生活支援のため、政府が一律1人10万円の支給を決めた「特別定額給付金」や、18歳以下の子どもたちに対する所得制限付きの「子ども給付金(子育て世帯への臨時特別給付)」は、そうした女性や母子世帯にとっての命綱になるはずだった。
だがそれらは、助けが必要な人々に必ずしも届かず、女性たちの雇用危機をより深めた。背景にあったのが、「世帯主の壁」という装置だ。
特別定額給付金の支給までに約1年9カ月
今年1月、鈴木明奈(仮名、30代)は胸をなでおろしていた。別居中の夫の口座に振り込まれていた特別定額給付金のうち、鈴木と子どもの分の20万円を2人に支払うよう命じた熊本地裁の判決が、ようやく確定したからだ。「迅速な支給」をうたったこの給付金が始まってから、約1年9カ月がたっていた。
鈴木はコロナの感染拡大が始まった2020年1月、「里帰り」中の親戚の家で、初めての子どもを出産した。出産までの別居期間中、自分や子どもへの夫の対応に不信感が強まり、話し合いの末、2020年4月に離婚することでほぼ合意が成立した。その月、政府による特別定額給付金の支給が閣議決定された。
特別定額給付金は、コロナの感染拡大による経済的影響への緊急経済対策の1つで、基準日(2020年4月27日)に住民基本台帳に記録されている全員に、1人10万円を支給する制度だ。「簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う」を目的に、「受給権者」とされた住民票上の世帯主に、家族分をまとめて支給する仕組みだ。
離婚がはっきりしなかったこともあり、鈴木は住民票を移しておらず、「受給権者」は世帯主の夫となった。
DV被害で夫から逃げている女性については「世帯主」でなくても申請・受給できる特例ができたが、鈴木は「DV被害者でなく、世帯主でもない」として役所に対応してもらえなかった。
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