これに対し判決は、制度の目的が「迅速かつ的確な家計支援」とされ、給付対象者が「基準日において住民基本台帳に記録されている者」とされていることから、「受給権者=世帯主」は給付対象者の家計支援を迅速かつ的確に行うための方策だった、とした。
そのうえで、①2020年4月におおむね離婚は合意され、夫から生活費の送金もなかったことから見て基準日の時点で実質的に夫と鈴木らの2つの世帯となっていた、②世帯構成員が受給を希望しなければ申請書に記載する方式となっていたのに夫は希望を確認しないで鈴木らの分も受給していた、③これらから、実質的な別世帯への給付分を夫が「悪意で利得」したと認められ、対象者の世帯への迅速な家計支援という制度の目的に反する、とした。
鈴木の代理人、福井雄一郎弁護士は「この判断によって、経済的支援が必要なのに『世帯主』でないからとあきらめていた人たちが救われうる。実態に合った支援のために重要な判決だ」と話す。
この判決は、「世帯主」の夫から別居中の妻の世帯への支払いを認めた画期的なものではあった。だが、個人単位の支給を求めたものではない。東京都に住む40代の伊藤やす子(仮名)は、支援金の個人単位支給を原則とする必要性を訴える。
コロナ禍の感染が始まった2020年2月ごろ、伊藤は夫のDVで知らぬ間に自宅の鍵を付け替えられた。自宅に入れないまま別居が続いたが、生活費は夫の口座に結び付いたカードで引き出せた。そのため、特別定額給付金が夫の口座に振り込まれても、さほど問題と思わなかった。
だが、やがてカードに結び付けられていた夫の口座が空にされ、経済的な締め付けが始まった。
「世帯主にまとめる支援金の仕組みでは、夫の一存に妻の生活が左右される。やはり個人単位が安心と思った」
子ども給付金でも形を変えて問題化
このような男性世帯主への給付集中は、2021年度に支給された「子ども給付金」でも形を変えて問題化した。ここでは、「迅速な支給」へ向け、すでに把握されている児童手当の口座が利用されたが、その口座は、養育している親のうち、「生計を維持する程度の高い人(所得の多いほう)」とされている。男女の賃金格差のなかで、男性世帯主に給付が流れやすい形だ。
とはいえ、子どもへの配慮から、夫婦が別居していた場合、児童手当は児童と同居している親に優先的に支給され、男親の収入が多くても、スタート前から別居していれば子ども給付金は母子に支給されるはずだった。
ところが、児童手当の受給資格者の確定が「9月末の基準日」であり、8月末までの申請が必要だったことが、今回の壁となった。9月1日以降に離婚や別居した母子には、子ども給付金は届かないからだ。
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