先の鈴木のように、離婚前の別居は生活の見通しが立たず、とくに不安定度が高い。にもかかわらず、ひとり親支援団体などによる「別居中・離婚前のひとり親家庭実態調査プロジェクトチーム」のアンケート(2020年9月Web調査)では、こうした家庭の18.1%が「子どもと別居中の相手が児童手当を受け取っている」と回答し、年収200万円未満が7割を超えた。
受給口座を変えられる制度を知らない人も4割近くにのぼり、「収入の多いほうの親」を振込先としてきたことが、母子に届かない事態を生むことになった。
2021年12月から2022年1月まで行われた一人親支援NPO「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」のアンケートには、基準日の壁で支援を受け取れない母たちの深刻な訴えが80件以上寄せられた。
「9月29日に離婚し、養育費も振り込まれない状態で元夫側に振り込まれてしまう」「11月に夫が失踪し受け取れない」「もらえると思っていた分、振り込まれないと聞いて絶望的になった。死にたくなった」といったもののほか、2022年春からの子どもの入学・入園を控え、制服や教材費が出せない、離婚による引っ越しで仕事を辞め、収入減で食費は子ども食堂などから支援されている、というものも目立った。
調査結果に批判の声が広がり、2022年7月の参院選を控えた政府は、基準日にかかわらず実態に合わせた支給へと姿勢を転換した。
「家制度」と現実的な支援の綱引き
このような、「家長」に家族を管理させる「家制度」の残り香と、女性など「必要な個人」に届く現実的な支援との綱引きは、阪神・淡路大震災など、大災害のたびに浮上してきた。
1998年には「被災者生活再建支援法」が生まれたが、ここでも「被災者への支援金は世帯主に支給」が盛り込まれ、2011年の東日本大震災では、若い女性から支援者に、次のような訴えも寄せられた。
女性は、津波で家が流され、生活再建支援金を申請した。父は2、3カ所家を持ち、女性は住むところがないが、父が妹との3人分を占有し、不服申し立てもとりあってもらえなかったという(『災害支援に女性の視点を!』(竹信三恵子・赤石千衣子編著、岩波ブックレット、2012年)。
ただ、子ども給付金での政府の姿勢転換のように、長引くコロナ禍での女性の困窮と、女性団体の働きかけに「世帯主の壁」が揺らぐ兆しも見え始めている。
特別定額給付金で特例として認められた、逃げているDV女性による申請は、「全国女性シェルターネット」などのDV支援団体の粘り強い働きかけが背中を押した。また、女性たちの懸念を受けて国会で野党議員の質問が相次ぎ、政府が制度の趣旨を繰り返し明言したことが、鈴木の勝訴のような「受給権者」の占有の押し返しにつながった。
こうした揺らぎを、ポストコロナでの「女性の現実に見合った新しい支援原則」につなげることができるか。私たちは、その分岐点に立っている。
(文中敬称略)
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