「わかる」と「納得する」には、大きな差がある 「生き物感覚」を失うことの恐ろしさ

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山折:そうか、専門の問題にかかわるんですね。DNAにしても量子にしても中間子にしても、私はそれを実感できないけれど、ところが顕微鏡かなにかでは客観的に実在が証明されているわけですよ。客観的にしっかり実在が証明されているにもかかわらず実感できない。

絵を見たり、音楽を聴いたりして感動しますね。これは体全体で実感しています。でもその感動の実態が証明できるかといえば、顕微鏡でも望遠鏡でも見ることができないし、証明できない。この矛盾をどう考えたらいいのかということを、いろんな科学者の方に聞いて歩いたことがあります。そうすると、DNAとかクォークというものを実感できるという科学者と、実感できないという科学者がいた。そんなにしっかり調査したわけでもありませんけど、私の感覚では科学者であっても半々ぐらいでした。それは自分の専門ではなかったからかもしれない。

生命誌研究館では「表現」を大切にしている

「科学的な内容をメディアで伝えるためには表現の世界をもっとひろげなければならない」と語る山折氏

ところで生命誌研究館の展示場では、いろんなカラフルな色が出てきますが、とてもいいですね。単なる「わかる」ではなく、体で納得するためには、非常に効果的なディスプレイだと思います。

中村:ここでは表現を大切にしています。サイエンスコミュニケーションではなく、表現グループというチームがあります。

研究は論文発表で終わりとされますが、これでは楽譜を書いただけ。演奏しなければ多くの人に納得していただけません。音楽のように演奏までする。だから研究館(リサーチホール)と名付けているのです。

コミュニケーションの場合、自分の頭でわかったことだけを整理してしまう。でも表現しようと思うと、まず自分の体全体で納得しないとできないので、そこから新しい発見があるのが面白いです。

山折:新聞を読んでいても、あるいはテレビを見ていても、メディアが科学的な内容を一般の人にちゃんと伝えることができているかというと、まだ十分じゃないと思いますね。それには、今おっしゃった表現の世界をもっと広げなきゃいけない。

中村:そうですね。よく啓蒙、普及とおっしゃいますが、それはやりたくありません。自分が納得したことをどう表現するかを考えて外に出す。芸術家と同じです。

(構成:長山清子、撮影:ヒラオカスタジオ)

※ 山折×中村対談 その2:「『人文学』の世界、なぜ貧しくなってきたのか」はこちら

※ 山折×中村対談 その3:「日本人なら、『やまと言葉』を大切にしよう」はこちら

山折 哲雄 こころを育む総合フォーラム座長
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