中村:生命誌は、「納得する」ということをとても大事にしていて、私はそれを「生き物感覚」と言っています。納得するためには、自然にいつも接していないと、その感覚が失われてしまう。閉じた環境で試験管とだけ向き合っていると、頭だけの理解になります。それは本当の理解ではない。「納得」と先生がおっしゃったのがまさにそれで、体でわからなければいけない。そのためには、どうしても大きな自然と接していないといけません。
私がいちばん心配しているのは、高層ビルの中でお子さんを育てるような状況になると、その感覚が失われるのではないかということです。今の大人は子供の頃に自然を体感していますから、今、閉じた中にいても、子供の頃の感覚が体にしみついています。でも生まれたときから窓も開かず、風も感じないところで育ったら、この感覚は得られない。それが怖い。
山折:そうですね。たとえば、数学の世界で四次元だ、五次元だといわれても、いくら説明してもらってもわかりませんよね。
中村:わかりません。
山折:だから私は、「じゃあ一度、そういう世界のことを三次元に置き直して説明してくださいよ」と言うんです。そうするとわかるかもしれない。その置き換えができなくなってしまうことが、いろいろな分野でも起きてくるでしょうね。
専門家だからこそ見えるものがある
中村:ただ面白いのが、私のお友達の数学者は十次元の話をするのですが、私は全然わからない。彼は十次元が見えると言うんです。それで、物理学者のお友達は量子が見えるんですよ。私にはDNAが見えます。私には十次元も量子も見えませんが、DNAは見える。
山折:DNAが見えますか?
中村:はい、見えます。専門家って、そういうものではないかと思います。
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