1つはマスコミの取材を実質的に規制する理由として、選挙での公平性を再三強調した点。杉本副議長は「マスコミは時間帯や紙面の制約により、発言の都合のいい部分を切り取られ、有権者に誤解を与える」と報道機関側の姿勢を問題視した。確かに偏向報道は慎まれるべきだが、公人である議員の特殊性を考えると取材に規制するルールを作る必要があるのか疑問だ。
副議長は「マスコミに精通する人間(議員)と無縁の人間がいる」と発信力の格差是正も主張したのには唖然とした。ビジネスの世界で競争を全面的に放棄しルール下に縛り付ければ「カルテル」と見做されるように思うのだが……。
2点目は共産党との関係だ。共産党に対しては、議会ぐるみでカルテルがあれば真っ先に異論を唱えるイメージがあったため、議長と会う3日前に共産党議員団の風見利男・幹事長に取材した。この取材では通達が取材の委縮効果を生むことについて「想定していなかった」等の見解をもらっていたが、議長は「風見君は同期だからすぐ話が来たよ」と取材内容が“筒抜け”だったことを示唆した。
筆者は共産党と政治志向などは違うものの、各地の議会で鋭い調査能力を発揮し、与党側の問題を追求していることに一目を置いていただけに意外な思いをもった。
同調圧力が地方議会のリアル?
地方議会の情報発信を巡っては、住民向けの議会報告会を開き、ネットを積極活用する動きがある一方、議員のブログを規制するルール作りが一時検討され物議を醸した事例も出る等、ネット時代の到来とともに情報発信を巡る世代間の意識差も透けて見える。
地方議員ブロガーである音喜多駿都議(無所属)は「取材を受けるかは個々で判断されてしかるべき」と港区議会の対応を批判する。一方、高橋亮平・中央大学特任准教授(元市川市議)は、一般的な議会の傾向から「議員がマスコミに情報を先出ししてトラブルになり、話をしないよう各会派でルールを申し合わせることはあるが、法的拘束力はない」と指摘する。なお、記者が議長と論争したとされるNHKは筆者の取材に「取材過程についてはお答えできない」(広報局)と返答した。
港区は、巨額の富を手にした経営者やテレビでおなじみの芸能人らが多く住むが、若手区議は「港区民は区政に関心が薄いので損をしていることは多い」と話す。例えばセレブが納めた多額の税金は財政調整制度により、生活保護者の多い貧しい区の財政を支えるために分配されている。関心はもう少し持たれてもいいはずだが、私たちが見知らぬところで本件のように新聞やテレビが報じない、しかし小さくはない問題も各地の議会にも埋もれているのだろう。
声なき声が埋もれ、言論から多様性が失われ、問題があっても議論ではなく、ある種の同調圧力をかけて規制するのが「地方議員のリアル」だったのだろうか。まもなく迎える新年。4月には港区議会を含む統一地方選挙が行われる。
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