ただ、にわかには信じがたい話である。一般的には議長は議員から選ばれているため、議員に対して独裁的な権限は振るうことは難しい。議会内には、「オール与党」体制と敵対する政党の議員もいるはずで言論統制は容易ではない。
取材を進めると、確かに議長は7月25日付で「議員のマスコミ等への対応について」と題した通達文を出していた。文面を確認すると、取材を許可制にしているものではなかったが、取材対応を慎重にするように呼びかけた上で、取材の「内容等について報告」を求めている。
地方自治法では議長の役割・権限について「議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理し、議会を代表する」(104条)と定めているが、取材対応は議事外のことだ。下町地域の区議会で議長を務めた経験のある中堅区議は、「何か問題があった時に(会派の)幹事長会で集約を図ることはあるが、日常の取材対応を報告させるのは考えられない」と首をかしげる。
この他区の区議が言う「何か問題があった時」というのは、たとえば普段は区議会の動きを報じないテレビ局が取り上げるほどの不祥事のことを指す。個々の区議があれこれとバラバラの発言をしないように、議長は危機管理として収拾を図りたいのが本音だろう。
では港区でこの通達文が出る契機となる「問題」は、どれほどのことなのだろうか。書き出しには「最近の報道内容」とある。複数の区議によると、都議会のヤジ問題が注目されていた時期に、ある区議が議会内のセクハラについてコメントした内容が「事実と違う」と他の区議から問題視された。議長がその数週間後に通達を出した背景にはここ1年ほどの伏線が何本かあるらしい。
ある若手区議が著書で書いた内容を巡って揉めれば、別の区議は議会に正式報告される前の話をブログで書くといったことで何度か物議を醸した。議長は2013年12月26日の臨時会を締めるに当たり、「最近、インターネットや出版物において、自分の議会活動の成果を過度に主張することが見受けられますが、このようなことは現に慎まなければなりません」と苦言を呈しており(議事録より)、若手区議の情報発信について苛立ちを以前から募らせていたことが窺える。
取材規制で広がる議員とメディアの距離
筆者が同著を読んだ限り問題は感じられないが、本筋ではないので今回は論評しない(著書を書いた区議らは筆者の取材に「ノーコメント」)。ベテラン区議は「政治家は自らの発言に正確さと責任を持つべき」と苦言を呈すが、仮に多少の間違いや誇張があったとしても、議会での公の論戦や有権者・オンブズマン・報道機関のチェックを通じて判断されるのが基本だろう。各議員に対し、報道機関の取材内容を報告させるほどの重大事に当たるかといえば微妙だ。
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