「おカネがなくてもできることはある」
「あんなデブは出ないほうがいいんだ」。石原都知事(当時)が、2009年、東京マラソンのレース中に心筋梗塞で倒れた、タレントの松村邦洋さんを辛辣に酷評したことを覚えている人もいるだろう。
このとき、松村さんの命を救ったのがAED(自動電気除細動装置)だった。その年、地域紙の記者から東京・あきる野市議に転身した子籠(こごもり)敏人さん(1期目は無所属、現在は自民党)は、住民との会合でAEDについて意見交換すると、使い方や置き場所がわからないという声が大半だった。「これでは身近にないと意味がない」。
当時、市内には役所や学校など数カ所に導入していたが、1台20万~30万円という価格面がネックで、市も拡大には二の足を踏んでいた。
「職員もAED普及に共感はするが、おカネがない。何とかしなければ」。折しも子籠さんは議員活動の傍ら、立教の大学院で公共政策を学んでおり、教授ら有 識者に相談。そして編み出したのが、企業などからスポンサーを募って集めた資金で、市がAEDを調達し、その代わりに広告主のクレジット入りのAEDボックスを配備するスキームだった。
役所で提案した当初、職員は「そんなにうまく行きますかね」と懐疑的だったが、子籠さんには勝算があった。
「行政にはおカネを稼ぐ感覚はないかもしれないが、資産の有効活用という話であれば乗ってくるはず。企業側にはCSR事業として持ちかけ、市民サービスに生かす」。年末の議会の一般質問で正式に提案。企業側にもメリットを感じてもらうよう、市役所や図書館などの、多数の市民の目に留まる施設に設置場所を絞り込むなど、企画を磨いた。市職員が“営業”に回って市内の農協の協力を取り付け、図書館などにAEDが配備された。
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