「予算ゼロ」で地域の課題を解決 2020年代を先取りする議員たち

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「専門的な知識は行政に及ばないが、行政側の意識に入っていない問題を可視化することが大事」と中妻さん。たとえば、住民約130人に独自に取ったアンケートの自由記述欄を見ると、「ファミレスがない」「路上禁煙にしてほしい」といった身近な要望から「荒川土手の決壊シミュレーションを踏まえた街づくりを」「地方から上京した学生向けの割安な住空間の提供など若年層の誘致をすべき」「武蔵境駅前にある図書館のように公益法人やNPO、起業家が集える施設」などの具体的でリアルな提案が寄せられている。日頃の住民との交流やアンケートを通じ、「くみ取れない民意が山のようにある」と感じるという。

「住民力」を高めて、高齢化や過疎化、治安維持などの問題に取り組むアプローチは、近年、全国各地の自治体や集落で増えている。そのキーワードは「ソーシャルキャピタル」。人々の協調行動を活発にして、社会の効率性を高める考え方で、物的資本、人的資本と並び日本語では「社会関係資本」と称される。なお、先述したあきる野市議の子籠さんも、AED設置を進めるにあたってソーシャルキャピタルを意識し、行政、住民、地元企業が一体となった「地域力をどう高めていくか」という視座で取り組んだ。

議員提案条例という“無理ゲー”に挑む

企画力や提案型の議員が増えれば、議員提出の条例も増え、それだけ民意を反映した行政になることが期待される。前回の記事へのネット上の感想でも「地方議員はもっと条例を作るべき」という指摘を見かけたが、私たちは実状を知る必要がある。

元市川市議の高橋亮平・中央大学特任准教授のブログによれば、議会に出された議案で、議員による政策的条例(一般市民にかかわる条例)が占めるのはわずか0.17%。先述したように、地方議員は、もともとチェック役として主に機能してきたという歴史的経緯があることもあるが、「条例案の文言を詰める、事務的なエネルギーと会派間の調整という政治的なエネルギー」(子籠さん)が要求され、大半の地方議会では難しいからだ。そのため政治的に対立の少ない「地酒で乾杯する条例」といった“難易度の低い”ジャンルに限られてしまう。

「知事とは違う視点で我々は条例を作る」と話す、自民党埼玉県議団幹事長の小島さん

それでも、本格的な政策的条例制定に挑む動きもある。自民党の埼玉県議団は、2013年3月、生活保護の受給者を宿泊所に住まわせ、保護費を代金として搾取する「貧困ビジネス」を規制する条例を成立させた。

国の法律では、宿泊所の届け出が入居者5人以上と定めているが、対象を2人以上に広げ、食事などの提供サービスの契約書コピーの提出など、ハードルを上げた。県議団は約3年をかけ、実態を調査。法の「隙間」を埋めることで悪質な宿泊所の撲滅を図った。現在は、危険ドラッグの規制条例案づくりも準備中という。県議団幹事長の小島信昭さんは「社会の問題にタイムリーに反応する必要がある」と語る。

同県議団は、2002年の「中小企業振興基本条例」に始まり、14本の議員提案条例を制定。2010年には山岳救助中に5人が死亡した防災ヘリの墜落事故を受け、ヘリの適正運行を定めた条例を作って注目されてきた。しかし小島さんは「本格的な条例は1年に1本がやっと。一般の市町村議会では難しい」と打ち明ける。

県議団は49人と大所帯。埼玉県議会は、議員を支える議会事務局が68人体制で、政策調査専従の職員も16人いるなど、地方議会の中では恵まれた体制だ。大半の地方議員は、国会議員のように多数の秘書を雇うわけにもいかず、政策ブレーンも限られる。今後、行政側に伍した条例を作るという「無理ゲー」をするには、バックアップ態勢のあり方も論じる必要がある。

新田 哲史 広報コンサルタント/コラムニスト

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にったてつじ

1975年生まれ。読売新聞記者(社会部、運動部等)、PR会社勤務を経て2013年独立。企業広報のアドバイス業務の傍ら、ブロガーとして「アゴラ」「ハフィントンポスト」にて評論活動を行う。2013年の参院選、14年の都知事選ではネット選挙案件を担当。東洋経済オンラインではネット選挙の記事を寄稿し、野球イノベーションの連載を企画した。

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