グーグル連合が、ソニーに勝利したワケ
桑島:なるほど。もう1つの理由は何でしょう。
ケネディ:日本人は政府を動かそうとすると、政治家に働きかけます。しかし特に外国の政治家にとっては、それはあまり意味がない。たとえばソニーはあるとき、自社のコンテンツがインターネットスペースで無断で使われないよう、活動を取り締まってほしいとアメリカ政府に要請したことがあります。
一方、インターネットの世界において、グーグルやフェイスブックは私たちの閲覧履歴を利用して、私たちの知らないうちにビッグデータを手に入れています。購買履歴やインターネット上の行動パターンをすべて分析し、効果的な広告が出てくるアルゴリズムを生成して、それを商売にしているわけです。したがってグーグルやフェイスブックは政府からできるだけ制約を受けたくない。
そこで彼らがとった作戦は、一般の人たちに対して、「政府によって、僕たちの自由なインターネット空間がコントロールされていいんですか」というキャンペーンを行うことでした。
桑島:そもそもアメリカ人にとっての政府は、日本人にとっての政府と少しニュアンスが違いますよね。アメリカ人が政府を全く信用していないわけではないでしょうけれど、アメリカ政府がドイツのメルケル首相の電話を盗聴していたことがスノーデン事件で明らかになったように、政治信条にもよりますが「政府は得体の知れないことをするものだ」という主張や、政府に対する嫌悪感が共感を得たりするケースがあります。
ケネディ:グーグルやフェイスブックなどのIT企業は「そんな政府に僕たちの自由なインターネット空間を邪魔されていいのか」というメッセージを出したわけです。これはアメリカ社会に対して、とても効果的に響いた。結局サポートを得られたのは、ソニーではなく、フェイスブックやグーグルのほうでした。
ソニーはたぶん無意識のうちに、議会に訴えれば世論が動くと思って、そういう行動をとったのでしょう。しかし彼らにああしてください、こうしてくださいといったところで、まったく意味がありません。なぜなら彼らは有権者の声しか聞かないからです。彼らは再選されたいのだから、選挙権のない人たちの願いを聞いても仕方がない。
日本人はロビイングというと、ワシントンでロビイストが政治家に働きかけるようなことをイメージします。それは基本的にほとんど意味がありません。政治家たちを動かしたければ、その政治家のいる各州の有権者にグラスルーツで働きかけることです。いま日本企業は各州で大量にアメリカ人を雇用しています。彼らの声なら政治家は耳を傾けますよ。
桑島:これは日本にとってすごく大事な話ですよ。言われてみれば確かにそうです。前回、この対談にご登場いただいた、東芝機械ココム違反事件のときに活躍された角家さんも、そのやり方をとっていました。有権者たちが手紙を描いたから、政治家は話を聞いてくれて、議会が動いたわけです。
ケネディ:たとえばTPPについても複雑な問題がたくさんあって、政府と政府だけではうまくいかないでしょう。どういうふうに世論や政治を動かすかというとき、政治家どうしで話し合っても決まらないのは当たり前です。彼らはそれぞれ有権者を抱えているのですから。
ステークホルダーやシェイプホルダーを立てて、その人たちに対してどうコミュニケーションをしていくかが重要です。それは対政治家に限りません。行政官、ビジネスマン、NGOの人たち、みんなが知っておくべきことです。それをジョージ・ワシントン大学では教えています。ジョージ・ワシントン大学に来れば、それが勉強できますよ。
桑島:よくわかりました。貴重なお話をありがとうございました。
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