安全確保のための帰国指示は合理的な判断だとしても、個人の保有資産がここまで影響を受けてしまうことは、個人はもちろん企業にとっても想定外だったろう。
困難を極める帰国のフライト手配
帰国のフライト確保自体も困難を極めた。現地日本企業に勤務し、今後もロシアに残留予定のHさんは、在露邦人によるいくつかのグループトークに参加している。
「そこで特に話題になったのは帰国便の情報でした」(Hさん)
というのも、東京―モスクワ間で運航していた日系航空会社の直行便は、ウクライナ侵攻の開始直後から運航を見合わせている。同じくモスクワと東京をつなぐロシア系航空会社の便もロシア政府の指示により3月8日以降は運航停止となっていた。
そのため外務省が3月7日に発出した渡航中止勧告以降の帰国者は、通常の直行便ルートを利用できないという問題にぶつかった。
外務省が公開している海外安全ホームページや 在ロシア日本国大使館が配信する安全情報メールでは、在露邦人へ向けて帰国便のフライト情報や専用予約窓口の案内が随時発信されている。そこに掲載されている代替便の選択肢は、中東経由の便が中心だ。これらの便は、モスクワやサンクトペテルブルクなど主要都市が出発地となるため、このエリア以外に在住する人はさらに乗継が必要となる。
「予約の難しさは、ワクチン接種状況に関する検疫の有無、PCR検査の受診タイミング、乗継行程、航空会社による手荷物などの規則といったように、様々な情報を踏まえて、複雑な航路を決定するところにあると思います。また、料金が高いと学生も簡単には選べないですし、迷っている間に航空券が売り切れてしまったという声も聞きました」(Hさん)
3月中旬の取材時点でHさんが教えてくれた情報では、カタール航空の中東経由便はエコノミークラスの片道で約30万円。4月まで待てば約15万円で同ルートに搭乗可能だが、それまでチケットが残っている保証はない。
また、エコノミークラス搭乗者が無料で預けられる手荷物は1個まで。それ以降は1kg毎に手荷物超過料金が発生する。
ロシアの地方都市在住のWさんの場合、なんとかフライトを確保できたのはよかったが、現地滞在用の私物は泣く泣く処分した。それでも合計3個の預け手荷物が発生し、20万円の手荷物超過料金が請求されたそうだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら