ロシアに住む日本人が体験した「パニック」の実際 緊急帰国指示でも「資産を持ち出せない」

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スーパーやカフェでは10~20%程度の値上がりはざらで、金額部分が手書きで急遽増額されたレストランのメニュー表も見かけられる。砂糖、サラダ油、ソバの実(日本で言うお米のような主食)などの食料品は買い占め状態になり、砂糖や生鮮食品、乳製品も値上がりしている。

影響は住宅にも及ぶ。ロシアに進出している日本企業の多くは、会社が駐在員の住宅手配を補助しているが、一部企業では住宅手当等の支給はあるものの、賃貸借契約自体は在勤者本人に委ねられる。後者の場合、手元の現金が不足すると、家賃の支払いに困る状況に陥りかねない。

AさんはATMが使えなくなる前にと、仕事の合間に上限最大の現金を引き出していたが、こうした混乱の中、その現金でどれだけ長くやりくりできるか不安な日々を過ごしたという。

3月に入ると、ロシア中央銀行がルーブルを大量に手配し、次第にルーブル不足は解消された。ただ、MasterやVisaなど主要カード会社が停止され、日本の預金を下ろせない状況は現在も続いている。国際送金も頼れない今、手元の現金が目減りする人は少なくない。

帰国指示だが「資産を持ち出せない」

さらにAさんはまた次の問題に頭を抱えることになった。勤務先企業からの、日本への緊急帰国の指示だ。

3月以降、日本企業もロシアから相次いで撤退し、現地に住む日本人も勤務先の指示により帰国を促されてきた。特に、企業の撤退ムードを決定したのが、日本の外務省が3月7日に発した渡航中止勧告だ。

外務省は、戦闘エリアからの遠近にかかわらず、ロシア全土の危険度レベルを引き上げた。これにより、ロシアは4段階のうち上から2番目に危険度が高い地域となった。

個々の企業の経営判断による帰国指示が中心だったそれまでとは変わり、この勧告により、多くの企業が現地駐在員と家族の安全確保のため、帰国指示へと大きく姿勢をシフトさせた。Aさんが働く企業も社員の緊急帰国を判断し、Aさんも帰国せざるをえなくなった。

こうした中で彼らにふりかかったのは、ロシアの金融政策だ。ロシア政府は、3月になってから国外送金を禁止し、さらにロシア出国時の持ち出し資産に対する上限金額を設定した。

「今回のルーブル暴落を受けて、そもそも外貨へ両替すること自体が資産を減らしてしまう行為です。それでも、帰国する時に日本の口座へ送金することもできないので、ロシアから出国する時に預金を下ろして現金で持ち出すしか手段がありませんでした。

そのうえ、出国時の現金の持ち出しは1万米ドルを上限と設定されてしまったため、悩んだ人はたくさんいたはずです。帰国時に、空港の税関で現金を数えさせられている人も見かけました。私自身も、空港で厳しくチェックされました。その場で現在のレートをケータイで見せ、やっと納得してもらえて持ち出せた状況です。購入して住んでいた自宅もそのままにしてくるしかありませんでした」(Aさん)

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