IT武装も最後は「人力」頼みの中国コロナ監視体制 音楽家ファンキー末吉の「デジタル隔離生活」下

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ところが外国人はそのアプリが使えない。アプリの中の書類フォーマットに「パスポート」という項目がなく、中国人のIDのみだったりする。さらには、外国人のアカウントではアプリサイトからダウンロードできなかったりするのだ。現実的には、外国人は検査結果が出る頃に病院に行って、紙の陰性証明を印字してもらってそれを持ち歩くしかない。

中国の病院で発行される新型コロナウイルス感染の陰性証明書(写真・本人提供)

ところが私のフライトはその検査結果が出る時間まで待っていたら間に合わない。そこで銀川には帰らず夕方の便で北京に行くというマネジャーに、その病院が発行した診察カードを渡して、代わりに陰性証明をもらって写メで送ってもらうことにした。首都である北京へ入るのはチェックがもっと厳しく、必ず飛行機に乗る前に陰性証明を提出しないと飛行機にも乗せてもらえないのだが、銀川のような地方小都市は、着いて空港を出る時に証明があればよいらしい。

銀川に着く頃にはメールで送られて来て、こんなスマホの写真で通るのかなと思ったのだが、検査官はこれをちらっと見ただけで通してくれたのでびっくりした。乗り物に乗る時とかには厳格なIDチェックをするので、犯罪者は国内移動もろくにできないIT大国の中国だが、地方都市での陰性証明自体のチェックはそんなに厳格ではないようだ。

周りの省ではコロナで騒いでいるが、銀川に入ってしまえば平和なものである。大きなショッピングモール以外ではみんなマスクをしてないし、小さなレストランに入店する際の「行動管理アプリや健康管理アプリの提示」もすでに形骸化している。ちょうどライブハウスに北京のバンドが来るというので見に行ったのだが、数百人集まっている会場の入り口では、体温を測るでもなくアプリの提示もなく、数百人がほとんどマスクなどしていない。

都会と地方で変わる監視基準

そんな平和そのものだった銀川も、泉州から戻って2日目に何やらざわざわし始めた。私が映画の撮影で行った泉州が高リスク地域に指定されたのだ。これに対してマネジャーは「あんた、誰かから電話が来てない?」と、とても心配している。

ファンキー末吉氏の行動管理アプリ(写真・本人提供)

「行動管理アプリは何色?」。中国ではこの行動管理アプリの緑色を提示しないと、ショッピングモールや人の集まるところには行けないどころか、駅とか空港にも入れないから列車や飛行機などにも乗ることができないのだ。ここには「泉州に行った」とは書かれているが、但し書きとして「高リスクの時に行ったわけではない」と書かれている。高リスクの時に行った人の行動管理アプリは、赤色もしくは状況に応じて黄色に変わるというので自分は安全だと安心していたら、寧夏の電話番号から私の携帯に着信があった。

「どうしよう……、無視する?」。アシスタントのヤオヤオ君がちょうどいたので聞いてみたら、「コロナ関係だと出なかったらヤバいですよ。下手したら捕まっちゃいます」と言うので、
「じゃあ、おまえが出ろ!」とそのまま丸投げした。彼は「本人は外国人だから、私が代わりに話しています」と話しているのを聞きながら会話を任せていたら、ふと気づくと彼はもうかれこれ1時間近く電話を持ったままいろんなところに電話をかけ直したりして話している。私の中国語力ではここまでするのは無理である。

話の内容はまず「泉州に行ったか」ということで始まる。行ったから電話をかけてきたのであって、実に不毛な会話である。どうやら電話をかけてきた担当の女性は「私の街にあの恐ろしい病が蔓延したらどうしよう」とパニックになっているようである。「これまで平和だったこの街に、高リスク地域から入って来た人間がこんなにたくさんいる、どうしよう、どうしよう」という感じだろうか。

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