IT武装も最後は「人力」頼みの中国コロナ監視体制 音楽家ファンキー末吉の「デジタル隔離生活」下

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2021年秋、中国国内をツアー中のファンキー末吉氏(右)とロックバンド「布衣」のメンバー・スタッフたち。2022年春からのツアーがまさに始まろうとした3月、ファンキー末吉氏は思わぬ「とばっちり」の隔離生活を強いられる(写真・本人提供)
ITを駆使し、スマホアプリでコロナの感染拡大を進める中国。そのおかげか、感染者を抑制していることに成功しているかのように思える。しかし、自慢のITによる隔離・監視体制も、人が使えば穴ができる――。中国を拠点に音楽活動を続けるミュージシャンのファンキー末吉氏は、おもわぬ理由で中国の地方都市でコロナ感染を疑われ、隔離を強いられる。中国隔離生活の実態から見える中国社会の一断面。
(『中国自慢のコロナIT監視体制が持つ大いなる穴』の続きです)

 

前回2021年11月の巻き添え隔離から4カ月。その後、私はバンドが用意してくれた寧夏回族自治区銀川市の部屋に住みながら、2022年4月からのツアーが始まるのを待っている。そんな中、私に珍しい仕事が舞い込んで来た。映画の出演である。

老人ドラマーの役として誰かが私を推薦してくれたのだろう、撮影場所である福建省の泉州に行って来た。そこから銀川に戻ってくると、世間が騒がしい。なにやら中国で、過去最大規模でコロナの爆発的感染が生じているらしいのだ。調べるデータによって数字はまちまちなのだが、2022年3月13日のとあるデータでは、中国全国で2141人。爆発的感染とはいうものの、この程度?という規模だ。同日、東京での感染者は8131人。東京では100万人のうち580人程度が感染しているのに対して、中国全土では同1.5人。感染者が多いとされる都市の深圳でも感染者数は121人で、100万人のうち感染者数は10人に満たない。人口が同規模の東京の70分の1ほどなのだ。

「疑わしきは隔離する」という原則

日本と比べてもたかだか数十分の1の感染者数で、中国はなぜ大騒ぎするのだろうか。それは中国が行っている「ゼロコロナ政策」による。「疑わしきは隔離する」というこの「ゼロコロナ政策」で、この巨大な国ではたかだか1日に数千人の感染者数であっても「爆発的」な感染なのだ。

日本では「中国の都市がロックダウンされた」というニュースにより「相当ひどいんだな」との印象を受ける。しかしこの国は一党独裁の政治体制であり、民主国家ではない。日本や西側諸国と違ってロックダウンなど簡単にできてしまうことを忘れてはいけない。政府が発する鶴の一声で、こんなにも多くの人民の自由を奪うことができる。それゆえ、この巨大な国でこれだけの感染者数ですんでいるのだ。

とはいえ、コロナ関連のいろんなニュースを尻目に、私が住んでいる寧夏回族自治区は平和なものである。コロナ禍が始まってから2021年の夏までずっと感染者はいなかったし、その夏にも1例だけ見つかっただけである。そのたった1例のために、この銀川市で数千人を隔離したと言う。それ以来ずっと感染者は現れなかったのだが、お隣の内モンゴル自治区や甘粛省、陝西省などで感染者が見つかり、ここに来て状況が厳しくなってきている。

そのような状況で、「銀川に入る時には陰性証明が必要」となった。映画の撮影のため、泉州に出発する時にはなかったはずである。陰性証明自体の取得は簡単である。中国では、小さな街でも数多くの病院で検査が受けられ、ロックダウンされて住民の多くが検査を受けるといった必要がない街以外では、基本的にあまり並ぶこともない。検査を受けると、だいたい半日もあればスマホにインストールしたアプリを使ってネット上で結果を受け取り、それが陰性証明となる。別に紙の原本が必要なわけではない。

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