IT武装も最後は「人力」頼みの中国コロナ監視体制 音楽家ファンキー末吉の「デジタル隔離生活」下

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翌朝は防護服を着た人が訪ねて来た。綿棒を喉に突っ込んで検査をした後、WeChatでこのグループをフォローしろ、と言われる。フォローをしたら、表示されるハンドルネームを本名に書き換えて、毎日2回、体温をここにアップしろと言う。前回の隔離と同じく、ここで隔離されている人たちのグループなのであろう。132人もいる……。

担当者のフットワークを考えると、132人は銀川市全体の感染者ではないだろう。おそらくこの社区だけで、これだけの人間が隔離されて監視されているのだろう。では、銀川全体では一体何人が隔離されているのだろうか。

そして、それは銀川だけの話ではない。泉州から、そしてその他の高リスク地区からは毎日たくさんの便がたくさんの都市に向かって飛んでいる。そのすべての都市で同じことが行われているのである。

私のような人間全員を、国を挙げてこうして隔離して監視下に置いている、というのだから、それはそれは膨大な数になるだろう。報道によれば、今全中国で4000万人の人々が「ゼロコロナ政策」の下、自由を奪われていると言う。

国家のやることは「絶対に受け入れる」

それに対して中国の国民は、すでに数年にわたるストレスは溜まっているにしても、そんな政策の国家に不満があるようには見えない。国家のやることは「絶対」なので、それに意義を唱える人間はいないし、ストレスが溜まるのはコロナが悪いのであって、決して国家の政策が悪いのではないのだ、と思っているように見える。

とくにヤオヤオ君のような1980年代以降に生まれた若者たちは、それこそ諸手を挙げて国を崇拝しているように見える。物心ついた頃には経済成長の真っ只中、もしくは生まれた時にはすでに祖国は世界有数の裕福な国家になっていた。それを成し遂げたのは中国共産党である。この国の建国記念日「国慶節」には、そんな若者たちが諸手を挙げて「偉大なる祖国」をSNSで褒め称える。別に誰に強要されたものではない。彼らは本気でそう思っているのだ。この国の「愛国教育」の賜物であろう。

監視されていることは知っている。でもそのおかげで犯罪は非常に少なくなって、国民はその良い面だけを見て納得している。それを実現してくれたのが中国共産党なのだ。「幸せな監視社会」が推し進める「ゼロコロナ政策」。それは中国という国家が、「コロナと共存」などと言わずに真っ向からコロナに戦いを仕掛け、完膚なきまでにそれを叩きのめそうとしているように見える。そして国民が一丸となって国家と一緒にそれと戦っている。

「欲しがりません、勝つまでは」。「自由」など欲しがらない! そんなものはコロナに完全勝利した時に手にするものなのだ……。それが例え「制限付きの自由」であったとしても。

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