IT武装も最後は「人力」頼みの中国コロナ監視体制 音楽家ファンキー末吉の「デジタル隔離生活」下

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その後、隔離6日目にしてヤオヤオ君から電話があり「隔離が終了した」と言う。「明日が7日目だから隔離終了は明日じゃないの?」と聞くが、「今終了です。すぐに社区警務室に行きますから、誓約書とドアに貼られた赤い紙を持って降りて来て下さい」というわけで、急いで降りて行って迎えに来たヤオヤオ君の車に飛び乗った。

通常は健康管理アプリによって最後の陰性証明をダウンロードしてWeChatのグループに送信、そのグループに通知が来て隔離終了という流れになるのだが、外国人の私はその健康管理アプリの実名認証がどうしてもうまくいかないのだ。

社区警務室に行って赤い紙を渡して、持って来た誓約書2枚にサインをして、1枚をもらっておしまい。よく見ると、その誓約書に書かれているパスポートナンバーは今のナンバーではなく、更新前の古いナンバーだった。誰がどうやって調べたのかわからないが、どこかに電話番号とひも付けされていた古いパスポートナンバーですべての書類を作ったのだろう。実名認証がどうしてもうまくいかないわけである。

人的な「お役所仕事」で隔離から解放

どうして隔離が1日早くなったかというと、ヤオヤオ君が毎日ここに電話して、この外国人の陰性証明の取得から通常行われる中国人とは違う隔離解除の方法について質問責めにし、そして「本来ならば隔離は泉州に行った日から数えて7日目であるべきで、隔離期間はとっくに終わっている」ということをとうとうと説明していたのだという。そのため、きっと担当者も面倒くさくなって、「陰性なのだからいいだろう」ということになったのだろう。

隔離解除を手にするファンキー末吉氏(写真・本人提供)

世界最新のITTシステムを使っていても、それに情報を打ち込む人間が間違えてしまったらそのシステムは使えない。そして、隔離終了を判断するのが機械ではなくて人間ならば、説得によって隔離を早くすることもできるという「穴だらけ」のシステムであったのだ。

そして、なぜこの社区警務室に急いでやって来たかというと、担当者が午後5時で帰ってしまうからだ。午後5時までにここに来ないと、担当者が明日ここにやって来る朝9時まで隔離解除ができないためである。最新のIT技術を使いながら隔離をされて、解除はごく普通のお役所仕事によって解除されたのであった。

無事に隔離を終えて久しぶりに外食をして酒を飲み、酔い潰れて寝て次の日エレベーターに乗ったら、途中階から乗って来たまったく面識のないおばさんが、私を見てこう言った。「あんた隔離は?」。私はびっくりして「終わりましたけど」と答えたが、「いつ終わったの?」と聞く。社区警務室でもらったサインした書類を見せたら、おばさんは納得してエレベーターを降りた。

どこの誰なのかはまったくわからないが、おばさんは私が隔離されていたことを知っている。あの赤い紙には「みんなで監視しよう」ということが書いてあった。まるで文化大革命の密告制度である。至る所に監視カメラがあり、国家による最先端IT技術での監視よりも、私にとってはこちらの監視システムのほうが数段、おそろしく感じるのだ。

ファンキー末吉 音楽家

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ふぁんきーすえよし / Funky Sueyoshi

1959年、香川県坂出市生まれ。1980〜90年代に爆風スランプのドラマーとして活躍。大ヒット曲「Runner」「リゾラバ」などの作曲者でもある。現在、日本と北京で音楽活動を精力的に続ける。著書に『中国ロックに捧げた半生』『日本の音楽が危ない~JASRACとの死闘2899日』『平壌6月9日高等中学校・軽音楽部北朝鮮ロック・プロジェクト』『大陸ロック漂流記―中国で大成功した男』『ファンキー末吉の10日で覚える「ひとこと」中国語会話』など。

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