ロシア傭兵になるシリア人「金とそれ以外」の事情 中東から見た「ウクライナ侵攻」の実際

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また、今も反体制派の弾圧や封じ込めでロシア軍に依存するアサド政権は、プーチン政権が存続するかどうかが自らの政権の行方にも影響しかねず、ウクライナでロシアの勝利を援護したいとの思惑もあるだろう。

さらに、反体制派筋によると、反体制活動や武装闘争に従事した者は、シリア当局から旅券を取得したり、更新したりするのが困難。シリア国内では雇用機会も限られ、トルコや地中海を経由して欧州などに不法越境して移民となるのが有力な選択肢の1つという。

しかし、それには越境を手引きするブローカーに多額の費用を支払う必要があるほか、移民船沈没など命の危険も伴う。このため、ウクライナに志願兵として渡り、早々に投降して亡命を試みる人もいるのではないかと予想する。

プロパガンダ信じる国民も

一方で、ロシアを支援するシリア人が一定数、存在することも事実だ。アサド政権は、シリアで圧倒的な多数のイスラム教スンニ派に対して、少数派のアラウィ派による強権支配で存続してきたが、内戦でアラウィ派の結束が揺らぐことはなかった。イランに続いてロシアがアサド政権をテコ入れしたことで、内戦はアサド政権が圧倒的に有利な方向に傾き、アラウィ派らアサド政権支持者たちのロシア支持の声が高まった。

内戦当初にシリアで現地取材した筆者は、現地で見聞きしたアサド政権の倒錯したプロパガンダに頭がくらくらしたのを覚えている。反体制派に「テロリスト」とのレッテルを貼り、国際テロ組織アルカイダなどのイスラム過激派が国を乗っ取ろうとしていると支持者向けに危機感を煽り立てた。過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭したことで、アサド政権の主張は、一部の国民により強固な形で受け入れられた。

今もシリア国営メディアなどは、ロシアによる「特別軍事作戦」の戦果を華々しく伝え、NATOの「東方不拡大の約束」を無視した西側の覇権主義的な動きに対抗しているロシアの自衛的な行動との報道姿勢が顕著だ。

ダマスカスなどの街頭には、「ロシアに勝利を」といったメッセージが添えられたプーチン大統領の肖像写真が掲げられ、バース党員らによる官制のロシア支持デモの様子を国営通信社などは写真入りで伝えている。

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