1980年代以降の「行政改革」や小泉政権の「聖域なき構造改革」の中で、短期契約で低賃金の非正規公務員は増やされ続けてきた。警察や消防、教育部門などを除いた自治体の一般行政部門で非正規は4割を超え(2020年4月)、こうした働き方に「官製ワーキングプア」(行政がつくった働く貧困者)との批判も高まっている。
これに対し、「非正規の位置づけを法律で明確にし、待遇を改善する」として生まれたのが、「有期雇用の法定化」ともいえる1年有期の「会計年度任用職員」だ。
「会計年度任用職員」は非正規の9割近くを占め、その76.6%が女性だ。有期でも正規職員と同じ労働時間契約の「フルタイム会計年度任用職員」になれば、正規と同じく給与や退職金が認められるから待遇は改善する、とされた。だが、5分でも10分でも労働時間が少ないと、基本的には従来どおりの待遇で退職金もない「パート」となる。つまり、パートを増やせば人件費を抑えられる仕組みだ。
その結果、2020年4月時点での総務省調査では、「パート」が会計年度任用職員の88.8%を占め、また、「制度導入前より報酬水準が減額された職種がある」は都道府県で53.2%にのぼった。
時給制になり、手取りは年140万円程度に
そんななか、藍野らも、1日7時間労働の「パート」となった。退職金がないのはもちろん、月給制から時給制に変わり、5月の連休など休みの多い月は大幅な減収になった。名目的な労働時間は減っても仕事量は変わらないため残業が恒常化した。そのため気が引けて残業代を申請できず、タダ働きも増えた。手取りは年140万円程度に落ち込んだ。
そんなとき、コロナの感染拡大が始まった。バイト先の外食店の仕事もなくなり、副収入が入らなくなった。感染への不安や生活苦から、暴言や執拗な苦情をぶつける住民も増えた。同僚の「会計年度任用職員」たちは、「住民からの電話を取るのが怖くて手が震える」と言い始めた。
DV対応での緊張感に、こうした心労が加わり、睡眠薬がないと眠れない日が続いた。疲労から仕事で移動中に車の運転ミスを起こし、あわや大けがという自損事故を起こした。
もう体力が続かない、と思い始めた2021年春、定年を迎えた正規職員の男性3人が、年収500万円の「会計年度任用職員」として再雇用された。藍野らが「職務に見合った賃金を」といくら求めても「財源がない」と相手にされなかったのに、男性の定年組にはあっさりと高賃金の「会計年度任用職員」の座が用意された。心の糸が切れた。
そんなとき、東京の困窮者支援団体から女性支援を担当してほしいという誘いが来た。子どもが独立した時期でもあり、その誘いに倒れ込むようにして、藍野は郷里を出た。
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