ライフシフト遠い「変わらない国日本」の緩慢な死 不確実性が2乗、3乗になる家族&パートナー問題

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国民に向かって、「これからは失業は当たり前。失業したってなんとかなるよ」とは言えませんからね。給料の低い非正規社員なしにはもはや経済が回らないという現状があると知りながら、「非正規社員の正規化を進める」などと言っている。これでは根本的に変わらない。

制度依存の日本人

日本人は、制度依存の体質だと言えます。「多分国がなんとかしてくれる、なんとかなるんじゃない?」という期待があるのです。

以前、学生の感覚を聞いたところ、不安は抱えていても、危機感は持っていませんでした。財政危機についてどう思うかと質問したら、「自分が生まれた頃から、もう20年ぐらいずっとそう言われているけど大丈夫だったんだから、自分が引退するまでも大丈夫なんじゃないですか」と言うのです。奇妙な楽観論です。

でも、こうした問題は、徐々に悪くなっていくもので、誰も悪化に気がつきません。いわば日本はいま、3ステージ人生を送れると思っている人が圧倒的多数派のまま、「緩やかな衰退」の一途を経てきているのです。特に、一流大卒などの上層にいるインテリジェント層はまだ、過去の恩恵を享受しています。今、被害を受けているのは、学歴の低い層、貧困層です。「正規、非正規の格差をなくそう」と言っても、恩恵を受ける側にいる人は、格差はそのままにしておいてくれと思っているのです。

「このままでは、社会が混乱していきますよ」と伝えても、恩恵を享受できる人たちは、自分たちが犠牲になってまでも社会を変える必要などないと考えている。自分と子どもだけが守られればそれでいい。個人としては豊かだけれど、全体としては衰退していくという社会に日本はなりつつあるのです。

それが行き着くところまで行ったのが、韓国です。韓国の合計特殊出生率は0.8です。結婚して子どもを産んだら、教育にたくさん投資しなければならないとわかっていますから、どうしても結婚や出産を躊躇して、少子化になってしまう。このアジア的親子関係が最も極端に出ているのが韓国なのです。

こうして、かつてケインズが指摘したように、特定の個人を富まそうとする戦略は、社会全体を貧しくしていきます。個人と社会の矛盾が、明らかになってきているのが現状でしょう。

(構成:泉美木蘭)

山田 昌弘 中央大学 文学部 教授

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やまだ・まさひろ / Masahiro Yamada

1981年、東京大学文学部卒業。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、中央大学文学部教授。専門は家族社会学。

親子・夫婦・恋人などの人間関係を社会学的に読み解く試みを行っている。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。また、「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。『結婚不要社会』、『新型格差社会』、『パラサイト難婚社会』など著書多数。

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