ところが、先述の通り、「中国式」防疫の柱は検査と隔離である。このため、香港政府は習近平総書記の「重要指示」の後、これまでは実施してこなかった「全市民に対する強制のPCR検査」を3回実施すると発表した。実施されれば世界的にも異例なほどの膨大な数の感染者を特定することになると予想される。しかし、感染者を見つけても、隔離・治療のため収容する施設は確保できない。何のための検査なのか。
ワクチンについても問題が指摘されている。香港では日本と同様のアメリカ・ファイザー、ドイツ・ビオンテックによるmRNAワクチンの採用を計画したが、昨年1月27日、習近平総書記が林鄭月娥行政長官に対し、香港の感染状況を「非常に憂慮している」と述べた直後、異例のスピード審査と手続きで中国企業・科興控股生物技術(シノバック)が開発した不活化ワクチンが認可され、先に接種が開始された。後にmRNAワクチンの接種も始まったが、現在までに200万人ほどがシノバックを接種している。
一方、各種の実験から、シノバックの効果がmRNAワクチンより劣っていることは検証されている。日本やシンガポールなどはシノバックを認可していない。シノバックについては当初、香港メディアで副反応の事例が多く報じられたこともあり、香港では特に高齢者の接種率が低く、これがコロナによる多数の死者につながっているのではと指摘されている。
「中国式」防疫の問題点を冷静に論じられない
ただ、防疫政策が国家の最重点政策にまつりあげられたために、香港では「中国式」防疫の問題点などを冷静に論じること自体がある種のタブーと化してしまっている。習近平の「重要指示」は、その発出の方法もまた異例であった。
通常、総書記の「重要指示」は、新華社の統一原稿という形で、多くの中国メディアで一斉に報じられるが、今回は香港2紙だけで報道された。中央政府は香港政府に厳しい責任を負わせる一方、香港で防疫が失敗し、感染爆発が起きていることを大陸の住民に広く察知されることを回避したいのではないか。武漢での感染爆発の隠蔽が失敗した後、共産党政権は素早く感染対策に本腰を入れて成功したように見えたが、政権が「不都合な真実」に向き合うことを躊躇する習性は決して根絶されたわけではない。
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