ウクライナ侵攻を決断したプーチン大統領の変質 クレムリン最高幹部も異論挟めない独裁者化が進む

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スターリンの例もあるように、指導者の精神状態が異常をきたしたとしても、その事実が表面化するのは在任中はないだろう。しかし常軌を逸した今回の侵攻を目の当たりにすると、真相に迫るのがメディアの役目だと思う。

2022年2月18日付のアメリカ・ニューヨークタイムズ紙は、一部の専門家がプーチン氏について、コロナ禍での執務室での閉じこもり生活の中で「より偏執病的に、分別がなくなる変化を遂げたとの考えを否定しなくなった」と慎重な言い回しで伝えた。最近プーチン氏の行動で「奇行」が目立つのは確かだ。そのひとつが「長辺が6メートルの巨大テーブル」だ。調停外交のため2022年2月に訪ロしたフランスのマクロン大統領をクレムリンで迎えたプーチン氏は、このテーブルの端同士で向かいあう形で座った。コロナの感染を防ぐという理由であれ、トップ会談のセッティングとしては異例だ。

数日間で終了する電撃作戦だったのか

そもそも今回侵攻に踏み切ったプーチン氏の判断自体、その「プラス・マイナス」を考えた時、通常の理屈では説明しにくいものだ。ウクライナ「制圧」はプーチン氏にとって念願の目標を達成することなのだろう。しかし前例のない大規模な制裁などその代償は計り知れないほど大きい。侵攻作戦自体もプーチン政権の当初の目算が狂っていることが次第に明らかになっている。越境してすぐに燃料切れで立ち往生する戦車。あわてて燃料や兵器を追加的に輸送しようと国境に並ぶトラック部隊。こうした光景は、ロシアが長くて数日間の電撃作戦で、ゼレンスキー政権を追い出し、傀儡政権を据えられると踏んでいたことを強く示すものだ。

通常、ロシア軍は遠距離から大規模な砲撃を加えた後、地上部隊が進撃するのが典型的なやり方だ。今回、最初に陸軍部隊と一緒に国境を超えたのは、治安維持や警備が任務の国家親衛隊だった。戦闘はすぐ終わり、政府庁舎の警備や関係者の逮捕などに移る作戦だったことを物語る。

前出のガリャモフ氏はこう説明する。「多くのクレムリン関係者も侵攻を知らず、ショックを受けている。明らかに軍部はプーチン大統領に対し、クリミア併合の時のように短時間で(ウクライナを制圧)できると説得したのだろう。ゼレンスキー大統領は侵攻すればすぐ国外に逃げるだろうから、誰か親ロシア派の政治家を据えればいいと言ったのだろう」。ガリャモフ氏はさらに、「予想していなかったウクライナ軍の抵抗に遭い、死者も大勢出ている。大統領は茫然としているだろう」と言う。いずれにしても、ロシア軍の戦力上の優位は明らかだ。一方、もしキエフが陥落してもゲリラ戦を展開するなど、ウクライナ側の士気も高い。侵攻作戦の結末を今、見通すことは難しい。

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