ウクライナ侵攻を決断したプーチン大統領の変質 クレムリン最高幹部も異論挟めない独裁者化が進む

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このプーチン氏への「恐怖蔓延」について証言はまだある。かつてクレムリンのスピーチライターを務め、クレムリン内の事情に精通している政治コメンテーターであるガリャモフ氏は、ラジオ局のインタビューでこう話した。「ナルイシキン氏は見るからにショック状態だった。出席者全員がショックだったと思う。彼らは以前から大統領を恐れていたが、今は一層怖がっている」。

この文脈でナルイシキン氏の発言を聞くと、1つの可能性が浮かぶ。ナルイシキン氏は「共和国」承認から派兵へと走り出したプーチン氏の方針に、恐る恐る別の選択肢を示そうとした可能性だ。「西側のパートナーと……」という発言には侵攻にすぐ踏み切らず、西側との外交交渉を続けるべきとのニュアンスがあった。

アフガン侵攻時のソ連共産党との比較

今モスクワでは、このシーンと1979年12月にソ連が始めたアフガニスタン戦争とを比べることが盛んに行われている。比較されるのは、侵攻をめぐるソ連共産党政治局内での決定過程だ。1979年春から検討を開始した政治局内では賛成、反対の意見の両論が複数出て、決定を先送りした。最終的にゴーサインが出たのは1979年12月に入ってからだった。ソ連末期の当時の状況より、今のプーチン政権のほうが最高指導部ですら異論を許さない「上意下達」体制ということになる。

2021年秋、侵攻を最初に「予言」した前出のパブロフスキー氏は、この独裁ぶりをプーチン氏の「スターリン化」と評した。スターリンはたびたび真夜中に政治局会議を開催した。粛清で銃殺を決める際には政治局員全員に賛否を言わせ、「集団責任」の体裁を好んだという。このスターリンの行動については独裁者特有の猜疑心、妄想癖のなせる業との評価がロシア内外ですでに定着している。

プーチン氏の「スターリン化」説と表裏一体の関係になるのだろうが、今国際的に議論されているのがプーチン氏の精神的異変説だ。多数の民間人の犠牲者も構わず砲撃を拡大し、ついには原発をも攻撃したロシア軍の今回の無差別攻撃を受け、プーチン氏の精神状態をいぶかる声が広がっている。

アメリカ議会からもプーチン氏の精神状態を疑問視する意見が出ている。バイデン政権の国家安全保障会議でロシアを担当し、その後シンクタンクに移ったロシア専門家であるケンドール・タイラー氏も2022年3月初め「何かが変だ(something is off)」とインスタで発信している。アメリカ政府は情報機関から機密報告を受けているらしいが、当面「something is off」がワシントンでの統一見解になりそうだ。

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