ハリウッド映画、「日本人配役」の選び方 奈良橋陽子氏が語る映画現場の最前線

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ならはし・ようこ●キャスティング・ディレクター、演出家。1947年生まれ。父は外交官で5~16歳までカナダで過ごす。ICU卒業後、ニューヨークの演劇学校で学ぶ。帰国後、ゴダイゴの一連のヒット曲を作詞。俳優養成所も主宰。キャスティング・ディレクターとして『ラスト サムライ』『SAYURI』『バベル』『47RONIN』ほか多数のハリウッド映画に参画。(撮影:梅谷秀司)

──キャスティング・ディレクターという仕事に就いたきっかけは?

映画『太陽の帝国』のオーディションでスピルバーグ監督のアシスタントをしたのが最初でした。もともと演劇が好きで、25歳ごろから演出をしてきたから、その経験がキャスティングに生きたんですね。アメリカ映画にいい日本人俳優たちを紹介したいな、というのもありました。

ハリウッドでは現地のキャスティング・ディレクターのほかに、外国人俳優を起用する場合はその国のキャスティング・ディレクターが担当します。映画『ラスト サムライ』以降、日本人役は増えていったのですが、いい演技ができ英語も話せ、アメリカ流の交渉ができる人はあまりいませんでした。私自身、演出の勉強も兼ねてやってきました。

この仕事は人と人とのコネクションが何といっても大きい。そしてどれだけ面白い俳優を何人連れてこられるか。同じ映画に携わっていた有名なアメリカ人キャスティング・ディレクターが、たぶん監督やプロデューサーの期待に応えられなくて、いつの間にかフェードアウトしていたこともありました。やるからには成果を出さないとダメなのです。その辺はたいへんシビアです。

映画『バベル』で菊地凛子さんが日本人の聾(ろう)唖(あ)の女子高生役に決まるまでのキャスティングは大変でした。最初のオーディションで彼女を有力候補に残しつつ、撮影に入ってからもそれ以上の適役がいないかと徹底的に探させるタイプの監督で、「日本中を探せ」「本物の聾唖者でいないのか」と、これでもかこれでもかと。凛子さんはそのたびにオーディションに呼ばれ、毎回毎回戦って、結果彼女が役を射止めました。

役者の話す英語はたいへん重要

──配役だけでなく、英語の特訓、演技指導、俳優のストライキの仲裁まで、とにかく幅広い仕事ですね。

日本の俳優さんの場合、まず通訳が必要。その通訳も演技の通訳となると難しいんです。役柄の感情の奥に潜むもの、監督の「もっとこういう感じが欲しい」などの要望を、私は演技も演出も経験があるので、伝えることができる。微妙なニュアンスの訳とか、こんな感じで、と撮影中も俳優にアドバイスします。

映画において役者の話す英語はたいへん重要です。最初のセリフで「この人の英語、ちょっと変」と観客が思った瞬間、その固定観念が耳に焼き付いてしまうのです。その後いくらきちんと発音しても、もう「よくわからない」と固定化されて、セリフを聞くのが面倒くさくなっちゃうのね。そうなったら最後、いかにいい演技をしてもすべてが無駄になる。

だから俳優の英語指導には力入れますね。この人が絶対いいと思ったら大推薦しますでしょ、そして監督も気に入った、ただ英語がレベル未満という場合、こっちは必死です。そこで特訓するんです。いい俳優は感性もいいし、この監督のこの映画に出るという目的意識が非常に強いから必死になってやる。最後には、普段の会話は完全じゃなくても、自分のセリフは確実に自分のものとして演技できるようになりますね。

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