ハリウッド映画、「日本人配役」の選び方 奈良橋陽子氏が語る映画現場の最前線

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──昨年日本公開の『終戦のエンペラー』は製作もされました。

「ハリウッドと日本をつなぐ」文芸春秋
1350円+税 246ページ

戦争責任追及から天皇を救った一人のアメリカ軍人の存在を知ったことが始まりでした。表には出ず、歴史に埋もれた unsung hero(称賛されていないヒーロー)である一人のアメリカ人が、一つの国に対してこれほどの影響を及ぼした事実を多くの人に伝えたかったんですね。それにはアメリカ人を起用してアメリカの映画にしたかったんです。

アメリカはイランだイラクだと戦争に突っ走っては、ずさんな終わり方をし、いまだ悲劇が続いている。唯一平和に終息させたのが日本で、以来ずっと平和を享受してる国ってほかにないじゃないですか。とにかく平和を取り戻すため、今では支配者である昨日の敵とともに歩んだ日本人の国民性を伝えたかったし、アメリカに対しては、昔はこんな立派にやったのに、今のアメリカはいったい何をやってるんだ!という熱い問いかけが私たちの思いでしたね。

インディペンデント映画で宣伝予算もなかったし、派手さもないから、封切り後は大きな興行成績は出せなかったけど、草の根的にビデオはロングランですごく売れてます。

ハリウッドは中国に目をギラつかせる

──ハリウッドにおけるアジアの存在感に変化は?

中国市場にかなり目をギラつかせてますね。アジア系を使うとしたらどこの俳優を使うか。中国人を使って中国で売れたほうが儲かるから、中国市場を意識したエンディングに変えたり、実にストレートな論理です。

一方で日本の小説、アニメなどの知的財産や、生と死、自己犠牲など日本人独特の世界観に興味を持っています。日本も韓国やフランスのように、国が映画への協力体制をもう少し整えれば、才能ある人や映画への熱意が出てくると思うけど、儲からない、リスクを取りたくないという感じ。そんな中で一所懸命いい作品を撮ってる監督もいるけど、その育成発展の応援者がいないのね。日本の一つの芸術に対して、個人個人の魂の表現に対しての温かい応援がもっとあっていいなと思いますね。

今まで私がかかわったハリウッド映画の現場では、日本人俳優の道徳観や気配り、規律や約束を守る点などがすばらしい評価を得ています。でも今、日本の若者が保守的になっているのが残念。若い人はもっと探検し、もっとオープンになって世界に出てほしい。日本のよさに閉じこもらないで、より豊かに生きていくために、海外でいろんな人と接して、予想だにしない考えに触れたりするのは、ほんと面白いですよ。面倒くさい、で終わっちゃってるならもったいないな。

──キャスティングに演出、作詞、監督、プロデューサー等々、フル回転で来た奈良橋さんの半生記。どんな人に読んでほしいですか?

今人生にめげてる人! 希望を持つこと、ポジティブに考えること。キャスティングや演出を通して思うのは、一人ずつ持っている世界がすばらしい。みんな違う。違っていい、違うからいい。人と比べるんじゃなく、自分が持ってるものは何なのか探し求めれば絶対ある。それがいちばん大事。自分なんかダメだと縮こまってる人にこそ読んでほしい。

人間の信じる力はすさまじく強いと思うんですね。何てすばらしいか一人ずつが確認してほしいな。私は自分でもエネルギーあると思うけど、何なんでしょうね、次々と求めるものが出てくるんです。誰が何を言おうと、自分がしたいことにもっとフォーカスして一心に向かっていくと、何て幸せになっていくことか。

──それが私、奈良橋陽子だ、って本なわけですね(笑)。

ハイ、そうです!

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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