エコに「ケッ」と思っていた私が考えを変えた理由 孤独から脱出し、日常が「意味あること」になる

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この時ふと、あるアイデアが私の頭に浮かんだのであります。

それは、これからはこの排水口には「キレイな水」以外は流さないと決めてはどうかということである。食器や鍋などを洗った水は、ためておいてベランダで育てている野菜に差し上げる。食べられるものが混じっているのだから毒じゃないし、逆に栄養があっていいのでは?

なので排水口に流すのは、1日の終わりにシンクをたわしで洗った時の、上水道レベルのキレイな水のみ。さすればこの古い管も詰まることなどあるまいて……そうだよこれまで私にとって、排水口とは汚れた水を流すためのものだったけれど、それを全く逆にするのだ。排水口は、きれいな水を流すためのもの! これからは、この排水口の先にあるもののことを常に優先して生きていくのだ!

そのフシギな決意をした時のフシギな感覚を今も忘れたことはない。突然、これまで経験したことのない深い安心感のようなものが心の底から湧き上がってきたのだ。なんというか、一気に仲間が増えたような、世界が暖かくなったような……。

何しろ排水口の向こう側の生き物たち、それは人であるかもしれず、サカナとか虫とか微生物、あるいはその水が流れていく川の恵みを受けて生きる植物かもしれず、そのような、大げさに言えばありとあらゆる生き物たちが急に、まるで友達というか仲間のように思えてきたのであります。

そう私は会社も辞めちまって、知り合いとて一人もいない場所に引っ越して、古く頼りない小さな老マンションの部屋にこうして一人ぼっちでいるけれど、決して一人じゃない。

だってこれからこの排水口にキレイな水を流すたびに、その先にあるサカナやタガメたちがにっこりと私に感謝している姿を想像することができるのである。それだけで、私にはちゃんと生きている意味があるのだと感じることができるんじゃないだろうか?

自分の行動に意味を見出せる「エコ」

そうこれこそが、エコに取り組むことの実に大きな効能なのである。

どんな小さなことでもいい、今日はエレベーターを使わず階段を使おうとか、車じゃなくて電車で出かけるとか、少しでも「自然に優しい」行動をとるたびに、心の中で自然とつながることができる。たとえいろんな事情で友達や知り合いが1人もいなくても、自分はありとあらゆる生き物の味方なのだと感じることができる。言葉にはできずとも、きっと多くの生き物が自分に感謝しているのだと想像することができる。

誇大妄想というなかれ。やってみればわかるが、これは案外「効いてくる」ものなのだ。先ほど、人の人生を腐らせるのは無力感だと書いたが、もう1つの大きな強敵が「孤独」である。

自分なんて世の中にいてもいなくてもいい存在なのだ、自分なんて生きていたって仕方がないし、誰の役にも立っていないのだと考えてしまうことは、大げさでなく人の命を絶つほどのどうしようもない恐ろしい感情である。

でもほんの小さなことでいい、他の生き物のために何かをすることができたなら。あるいは何かをやめることができたなら。自分の人生にもちゃんと意味があるのだと自分に言い聞かせることができるし、実際、ちゃんとその行動にはいくら小さくとも間違いなく意味があるんである。

こんなに「人生に効く」行動をやらないなどという手があるだろうか? 人見知りだろうが引きこもりだろうが金持ちだろうが貧乏だろうが誰でもいますぐ行動に移せるというのも誠に素晴らしいではないか。

その巨大な効能を前にしては、先ほど書いた「損」とか「得」などという浅はかな線引きは一気に無力化する。そう人生における損得の思い込みってものを根本的に考えなおす良いきっかけにもなるのですよエコってやつは。

……つい興奮して長くなった。

肝心な最後の効能「お金の不安からの脱出」については次回に。

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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