SDGsとGDPは両立できる?の問いがズレている訳 オードリー・タンが語る「169分の1」
〈SDGs〉の達成について語る時、よくとりざたされるのが〈GDP(Gross Domestic Product、国内総生産)〉、つまり経済成長とのバランスのとり方です。地球上で暮らす人類を誰も取り残さずに私たちの未来を創ろうとする時、現代の経済成長を目指した市場経済との間には矛盾があるという指摘ですね。
その答えはとてもシンプルで、「〈GDP〉は〈SDGs〉に169あるターゲットのうちの一つでしかない」ということです。169分の1ということですね。〈GDP〉も大事ですが、他の169のターゲットも同じように大事なのです。
もしかしたら皆が〈GDP〉のために費やす時間も169分の1でいいのかもしれません。
公共の議題について討論する時、これまでの私たちは〈GDP〉を用いて政策を計測してきました。一つひとつの政策が終わる時、その年の〈GDP〉にどのくらい貢献できたのかが問われます。貢献しないわけにはいかないということですね。
でも、〈GDP〉を追求する時に、それが温室効果ガスの増加にどれだけ影響を与えてしまうのかを問う人はほとんどいませんでした。皆が〈GDP〉が下がるのは悪いことだと思っている、それは私も理解できます。でも温室効果ガスの増加だって、十分悪いことですよね。その悪さは同じレベルで、どれも169分の1です。ただ、実際には温室効果ガスの削減は数倍重要だといえなくもないのですが。
社会や環境の破壊は、経済損失よりも大きな痛手
一般的に「〈GDP〉をこれ以上下げてはならない」というラインを〈ボトムライン(Bottom Line)〉と呼びます。商業社会においても、企業経営で税金などを引いた後の純利益を〈ボトムライン〉といい、株主に損をさせないよう、「我々の今年の〈ボトムライン〉はこれで、これを下回ってはならない」などといった形で使われています。
私がここでお伝えしたいのは、〈SDGs〉は私たちに〈ボトムライン〉は一つではなく、さまざまな種類があると教えてくれているということです。
いわゆる「普通の商業社会」にだけ〈ボトムライン〉があるわけではなく、仕事を求めて台湾に出稼ぎに来た人々を攻撃してはならないことや、大気圏のオゾン層を破壊してはならないこと、地球温暖化をこれ以上進めてはならないことにもまた、〈ボトムライン〉があるのです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら