「フルタイム勤務で手取り15万」26歳男性の困窮 少ない給与から「引かれ続ける税金」への不信

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昨年10月の衆院選では、政権与党によるコロナ禍対策に不信感があったので野党共闘の候補に1票を投じた。ただ支持政党が決まっているわけではない。「岸田内閣に期待がないわけではありません。評価はもう少し見極めてからにしたいと思っています」と話す。

いまイチロウさんが切望しているのはベーシックインカムだという。「時給が少し上がったところで、手取りはむしろ減るってことがわかってしまった。だったら5万円でも、10万円でも現金を支給してくれたほうがありがたいです」

コロナ貧困を取材する中でベーシックインカムを望む人が増えたと感じる。関心の高まりの背景には、パソナグループ会長の竹中平蔵さんがベーシックインカムの導入を提案したこともあるだろう。イチロウさんのように働いても人間らしい暮らしができず、袋小路に陥った人たちにとって、その提案は魅力的に映ったはずだ。

ただ現在のように高い家賃水準や、医療や教育、福祉といったベーシックサービスにも費用がかかる状態が放置されたままでは、わずかな現金などすぐに吹き飛んでしまうだろう。家賃補助制度の導入やベーシックサービスの無償化・低額化がない中でベーシックインカムだけを導入しても、待っているのは究極の自己責任社会だ。そうした議論がなされないままベーシックインカムへの期待だけが高まる現状に、私はむしろ空恐ろしさを覚えてしまう。

唯一の贅沢は「読書」

イチロウさんには唯一自分に許している贅沢があるという。それは読書だ。家計簿によるとこの3年間の書籍代は「18万8413円」。高額な専門書などは図書館で借りるが、書籍の購入費用だけはできるだけ惜しみたくないという。

今はまっているのは古代ギリシャの哲学者であるプラトンの著作を集めた「プラトン全集」。イチロウさんによると、プラトンは理想国家において、政治は一部のエリートが担うべきであることや、彼らは私的財産を所有しないこと、さらには生産労働に就かない代わりに国を治める仕事に徹底して奉仕することなどを主張している。

イチロウさんはプラトン全集について語るときばかりは、それまでの物静かな口調とは打って変わって熱心に身を乗り出してきた。「めちゃくちゃおもしろいです。これを紀元前5世紀に生まれた人が言ってたんですよ。すごいですよね」

少なくともイチロウさんが上げたくだりについては、現在の政治家にこそ聞いてほしい話である。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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