「フルタイム勤務で手取り15万」26歳男性の困窮 少ない給与から「引かれ続ける税金」への不信

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最近、ショックを受けたのは、小麦粉が値上がりしたせいで6枚切りの食パンが100円で買えなくなったこと。友人の結婚式に出席して収支が赤字になりそうになった月は、昼食を「カロリーメイト」や「ウイダーinゼリー」にして出費を抑えた。午後7時、8時まで残業をしていると、空腹で集中できず往生したという。

「コンビニなんて何年も入っていません。なぜかわかりますか。高いからですよ。果物も高級品。もうずっと食べてません」

飲食関係の会社に就職したが…

自営業を営む両親のもとで育った。裕福とはいえなかったが、大学は仕送りをもらいながら通うことができた。一方で就職活動には苦戦した。「コミュニケーション下手で、面接ではいつも緊張してしまって」と振り返るイチロウさん。人手不足とされる介護や小売、飲食業界なら採用されるはずと友人からアドバイスを受け、飲食関係の会社に滑り込むことができたという。

会社では正社員として店舗を任されたものの、客からのクレーム対応に苦労した。ライスの提供が遅れた男性からは、謝っても、謝っても「なんだそのクソ対応は!」「やめちまえ!」と怒鳴られ、デリバリーを頼んだ女性からは電話越しに「まだ届かねーんだよ!」とキレられた。深夜までサービス残業をしても、給与は20万円足らず。一方でお金を使う暇がないので、半年余りで貯金は100万円になった。

早々に「このままではもたない」と思った。職場の人間関係には恵まれたものの、勤続1年がたつ前に退職。すぐに書店でアルバイトを始めたが、折悪しくコロナ禍の直撃を受ける。時短営業や休業のあおりで、月収は休業手当を含めても5万円を切った。貯金の残高がみるみる減っていく中、必死で就職活動をしてなんとか現在の流通情報関連の会社に転職することができた。

会社では飛び込みの営業も任されているが、雇用形態は半年更新を繰り返す契約社員。最近、時給が100円アップして1200円になったのに、手取り額は減ってしまった。給料に応じて差し引かれる社会保険料や税金が増えたからだ。

イチロウさんは「世間ではよく(ワーキングプアに対して)『好きでその仕事を選んだんでしょ』と言われますが、違いますよ。それしかないから、仕方なく選んでるだけです」とため息をつく。

同感である。一部の会社でサービス残業が常態化していることも、飲食業界の行き過ぎた“お客さま第一主義”もイチロウさんの自己責任ではない。メンタルに不調をきたす前に退職したのはむしろ賢明な判断といえる。最大の問題はフルタイムで働いても、生活保護水準と変わらない手取りの雇用しか選べないことだ。

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