「現代の闇」を予言したマルクスとケインズの慧眼 GAFA支配は「アヘン貿易の世界化」に他ならない

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木村:しかし、資本主義をずっと続けてきて、これまでの価値観を逆転させることは大変難しい。拝金主義を顧みないグローバル資本主義が歪んでいるのはわかるけれども、どのような道筋で価値転換をはかるのか。富裕層への累進課税などの富の再配分はどこまで有効なのか。ソリューションは簡単には見つからない。

水野:『中世の秋』を著したオランダの歴史家ホイジンガは、中世から近代に変わるとき、スパッと変わったわけではないと言っています。彼は「寄せては返す波」と表現していますが、つまり、時代が変わる時期においては、現状維持しようとする人と、新しい時代に向かおうとする人とのせめぎ合いが一定期間続いたと。したがって、今、近代の終わりが見えてきて次の時代を迎えるときに、やはり同じようなことが繰り返されるのではないでしょうか。

歴史は一直線には進まない

木村:その通りだと思います。アメリカ東海岸のニューイングランドにあるセーラムでおぞましい魔女裁判が行われ、19人が魔女として処刑されたのは17世紀半ばのことです。魔女裁判が猖獗をきわめたのは、中世ではなく、むしろ近代になってからでした。

歴史は一直線には進まない。そういう意味では、16世紀から500年以上、近現代の西洋文明が続いてきて、今、われわれはどういう位置にいるのかということをレビューするには、格好のタイミングなのですね。英国の文化思想史家ローマン・クルツナリック氏が言うところの「よき祖先(グッド・アンセスター)」になるためには、さしあたり次の100年の未来を構想する力が求められているのでしょう。

木村 伊量(きむら ただかず)/元朝日新聞社社長、国際医療福祉大学理事。1953年、香川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社入社。政治部長、東京本社編集局長、ヨーロッパ総局長などを経て、2012年、朝日新聞社代表取締役社長に就任。2016年、英セインズベリー日本藝術研究所シニアフェロー。現在、国際医療福祉大学理事・大学院特任教授。著書に『私たちはどこから来たのか 私たちは何者か 私たちはどこへ行くのか:三酔人文明究極問答』(ミネルヴァ書房)がある(撮影:尾形文繫)

水野:拙著『次なる100年』(東洋経済新報社)にも書きましたが、西洋文明というのは、一貫してコレクションの歴史なんですね。コレクション、つまり所有することに意義がある、所有することが成功することなんだと。

ノアの方舟がコレクションの第1号で、コレクション(蒐集)の目的は社会秩序の維持であって、その対象は土地(古代)、そして霊魂(中世)、そして資本(近代)と変わってきました。この3つを過剰に「蒐集」をしておけば、為政者は危機に際してその支配下にある人々を救済してくれました。資本はそれに加えて現世における「生活水準の向上」の機能を持っていました。

ノアの方舟は人類を救済しました。saveには救済の意味もあるので、save(貯蓄)を累積すれば資本となります。資本というのは最初に救済の意味があって、そのあと13世紀になってもう1つの資本の意味、すなわち将来に投資することで生活水準の向上という意味で利息のつくお金ということになった。つまり、ヨーロッパ史というのは救済がベースにあって、その土台の上に生活水準向上という考え方が乗っかってきたと言うことができるんです。

木村:そういうインセンティブに動かされてきたということですね。

水野:それをノアの方舟の古代からずっと現在まで続けてきて、その行き着いた先がゼロ金利です。ですから、生活水準向上という意味での資本は、ゼロ金利となって、供給力は必要なときに必要なものが全部届くようになった。

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