実は口約束?歴史動いた「薩長同盟」の意外な真実 「薩摩と長州が共に戦う」という条項もない

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それでも実践型の大久保からすれば、どんなかたちであれ、協力関係が築ければ、あとは現場でとことんやるのみ。幕府から薩摩藩に長州征討のための出兵の準備が命じられても、大久保は断固拒否。京都から大坂城に出向き、老中の板倉勝静に「出兵を拒絶する」という書面を差し出した。

板倉もさぞ泡を食ったことだろう。受理を拒むと、大久保は板倉の役宅まで出向いて「なぜ却下したのか」と迫った。有無を言わさずに、相手に要求を突きつけるところも、大久保が「冷淡」とされるゆえんだろう。西郷にはできない役回りだった。

急速に勢いを失った慶喜

大久保の強気な姿勢は、他藩にも影響を与えることとなる。蓋を開けてみれば、幕府の出兵要請に応じたのは、わずかに14藩のみ。幕府は長州藩相手に苦戦が強いられるなか、将軍の家茂が病死してしまう。

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家茂の代わりに陣頭指揮をとることになった慶喜は、戦争続行を主張。天皇に了解までもらいながらも、いざとなると態度を変えた。唐突に長州の征討をあきらめてしまい、周囲を大いに困惑させている。

強敵だった慶喜が長州征討の失敗によって、急速に勢いを失っていく。倒幕への弾みをつけるまたとないチャンスだったが、大久保は慌てない。西郷も動かない。薩摩藩内では、なお倒幕の機運が高まらないからだ。

混沌な政治情勢のなか、次なる一手をどう打つべきか。大久保は思案にくれるばかりだった。

(19回へつづく)

【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』 (講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家 (日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』 (ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵"であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』 (朝日文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
平尾道雄『坂本龍馬 海援隊始末記』 (中公文庫)

真山 知幸 著述家

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まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード2021」でニューウェーブ賞を受賞。
X: https://twitter.com/mayama3
公式ブログ: https://note.com/mayama3/
 

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