実は口約束?歴史動いた「薩長同盟」の意外な真実 「薩摩と長州が共に戦う」という条項もない

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龍馬が西郷家に泊めてもらったときのことだ。龍馬は、床の間の縁を枕にして寝転びながら、歴史書『資治通鑑』を読んで「西郷さん、ここのところは何という意味ですか?」と質問した。そんな行儀の悪い龍馬に対しても、西郷はいたって丁寧に説明したという逸話が残っている。

また龍馬は着の身着のままで鹿児島へ来たため、西郷の妻イトに「いちばん古いフンドシをくださらんか?」と頼んだことがあった。まさに人のフンドシを借りようした龍馬に、イトは頼まれたとおり、西郷の使い古しのフンドシを手渡した。

帰宅後にそれを知った西郷は愕然。妻をこう叱ったという。

「お国のために命を捨てようという人に古いフンドシとは何事か! いちばん新しいのにお取り替えしなさい」

人懐っこい龍馬に、人間味あふれる西郷。2人の相性はかなり良かったようだ。

坂本龍馬暗殺の黒幕は大久保利通?

そうして西郷と龍馬が親しく交友した一方で、大久保利通はといえば、龍馬との接点は驚くほど少ない。そのことから、のちに龍馬が暗殺されたことについて「大久保が黒幕では?」とする説も後世では唱えられている。

大久保が龍馬の暗殺をもくろんだというのは、いかにも突飛な話だ。動機として挙げられるのは「武力による倒幕を理想とした大久保にとって、大政奉還による無血革命を目指した龍馬は邪魔だったのではないか?」というもの。だが、実際には、薩摩藩もまた大政奉還の実現に動いたし、狙われる龍馬の命をむしろ守ろうともした。「大久保黒幕説」の妥当性は低いだろう。

だが、後世において「龍馬暗殺」というあらぬ疑いをかけられてしまうのが、いかにも大久保らしいように思う。西郷のような「人間力」があれば、大久保にまつわる後世の誤解もずいぶんとマシだったのではないか。

多くの人がそうであったように、龍馬もまた大久保ではなく、「大きく叩けば大きく響く」西郷の人間味に魅了された。そして、龍馬は薩摩と長州が手を組むという「薩長同盟」を実現させる。龍馬に加えて土佐藩の中岡慎太郎が仲介となり、薩摩藩の西郷や小松帯刀らと、長州藩の桂小五郎とが手を結ぶこととなった。

次ページ合意に至るまで紆余曲折
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