「IT派遣はブラック」と言われ続ける本当の理由 ネットで目にする「ピンハネ、SESやめとけ」の実態

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ネットの情報や求職者からの相談で最も多いのは、「稼げない」という不安だ。

未経験者向けだと年収250万円~280万円の求人が多い。パーソルキャリア・dodaが公表している年収ランキングによると、ITエンジニアの平均年収は452万円。それを考慮すると、確かにそこまで稼げる仕事だとは言えない。ITエンジニアは、なぜ稼げないと言われているのか。

河井社長:稼げないのは、前述したように「多重下請け構造」が原因だと言えます。結局間にピンハネ業者が入れば入るほど報酬は抜かれてしまい、実務を担当しているエンジニアの手にわたる報酬が少なくなってしまいます。実際、私がエンジニアとして派遣されていた当時の年収は、入社後5~6年経っても、そんなに上がりませんでした。

ただ、必ずしも「SESだから稼げない」というわけではありません。会社によってはちゃんと稼げるところもあります。重要なポイントは何かというと、所属する会社が顧客からもらっている料金のうち「どれだけの金額をエンジニアに還元してくれるか?」です。この「還元率」が低い会社に所属してしまうと、中間業者がいなくても給料は上がりづらくなります。

つまり、中間業者が少ない企業、かつ還元率が高い企業に入社できれば年収は高くなる可能性があるということだ。実際に就業支援を行っていると、未経験者向けの求人であっても給与はピンキリだ。みなし残業込みの年収240万円スタートもあれば、同じ業務内容でも年収300万円以上で残業代が満額出る企業もある。

スキルが身につかない

ITエンジニアといえば、「専門性の高い仕事」というイメージがある。それなのにネットでは「スキルがつかない」という声も多く聞こえてくる。なぜ、専門職であるITエンジニアが「スキルが全然つかない」と言われてしまうのか?

河井社長:これもSESの構造に問題があります。SESで三次請け、四次請けといった下層で仕事をもらっている会社に所属してしまうと、どうしても低スキルの仕事しか回されないことがあります。

上層に入っているSES企業は、自社のエンジニアに高スキル(高単価)の仕事を優先して回します。そうしたほうが目先の売上も上がるだけでなく、自社のエンジニアのスキルアップにもつながり、将来的にさらに売上が上がる可能性があるからです。

また、階層が上の会社でもエンジニアにとってスキルアップにつながりづらい環境もあります。それは、配属先の選択に「エンジニアの意向」が反映されない会社です。会社の都合で配属先が決められてしまうため、エンジニア本人が「身につけたいスキル」を持っていたとしても、会社は今までどおりの配属先に配属します。そのほうが会社にとっては単価が下がるデメリットを侵さず、配属先を変更するための営業コストもかけなくて済むから、というのが会社側の言い分です。

手に職をつけることで安定した収入、キャリアを手に入れられるITエンジニアにとって、スキルがつかないことは致命的な問題だ。そうならないためには、階層が高い会社を選びつつ、配属先の希望を考慮してくれる会社を選ぶ必要がある。

IT派遣(SES)の場合、客先でひどい扱いを受けたり、派遣先の社員から仕事を丸投げされて残業が増えてしまうといった声も多く聞きます。そのような状況は、実際にあるのか。

河井社長:私がエンジニアとして派遣されていた当時(10年くらい前)は、そういった派遣先もありました。ただ、現在はこういった状況がかなり改善されていると言えます。

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