「新卒が3年で辞める」のは本当に悪いことなのか キャリアアップの環境整備が不可欠な時代だ

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しかし高卒は、キャリアアップのための離職ではなく、「ミスマッチによる離職」が起こっています。大卒と高卒の離職率に大きな差はないように見えますが、高卒生の場合は「1年以内の超早期離職」が高い傾向があります。2018年卒でみると、1年目の離職率は高卒生16.9%に対し、大卒生11.6%。大卒と高卒の3年以内の離職の差は、1年以内の離職率の差がそのまま差になっています。

高卒の「ミスマッチ離職」の要因の根底には、就活の仕組みがあります。高卒は「1人1社ずつの高校経由の応募」「求人票だけの情報源」「短い就職期間」など、高卒特有の就活の仕組があり、個人が完全に自由に選んで就職するわけではありません。

大卒の場合は。数多くの企業から自ら主体的に企業を選んでいるので、ミスマッチそのものが発生しにくくなっています。つまり、今の高卒生の就活制度が離職率を高める原因となっています。

人生100年時代と言われる昨今、「キャリアアップ転職」を重ねることは悪いことではありません。しかし、「ファーストキャリア」はとても重要です。キャリアを重ねる過程で最初の会社の経験は、その人の社会人人生に大きく影響を与えます。理念や価値観、企業文化などは、「ファーストキャリア」で学んだことが頭の奥底まで染みつくと言っても過言ではありません。

そう考えると、大きな影響力を持つファーストキャリアでのミスマッチは、その人の社会人人生・その後のキャリアアップにとって大きな問題だと言えます。

早期のキャリア教育が必要

それでは、高卒生のミスマッチを防ぐために必要なことは何なのでしょうか。

一つには、キャリア教育です。大学生も高校生も同様ですが、「知らないこと」はミスマッチにつながります。自分がどのような特性を持っているのか、何にやりがいを持つのか、どういう仕事に向いているのかなど自己理解し、世の中の業界や業種について理解することです。

二つには、選択肢の多さです。高校生にとっては、「多くの企業から」自ら職業選択した上での意思決定が必要なはずです。

現在は、若者の社会的・職業的自立や学校から社会・職業への円滑な移行を目指し、多くの高校でキャリア教育や進路指導が行われていますが、実際に動いているのは「先生」です。ただ先生だけに頼っている状況には限界があります。

多くの先生は、学業やキャリア教育に関する「知識」を備え、生徒の学校生活での特性や強みや性格などを良く把握しています。しかし、民間企業での実体験はありません。そこで、実体験のない部分については、企業や企業で働く人の力を借り社会の実態を伝えることを考えても良いと思います。さらに、官民一体、学校と民間企業や一般の方々の力を合わせて、キャリア教育とキャリア指導を行う仕組を作る必要もあると感じています。

これからの社会では転職に対するネガティブな捉え方はなくなり、人はキャリアップのため転職をして行くことになります。キャリアアップを求めて、3年以内に離職することが、不利益になることはなくなっていくでしょう。

しかし「人の生き方」という側面ではどうでしょうか? 人生は自己利益だけではありません。もし授業料を支払って勉強した3年であれば、キャリアアップするいいタイミングかもしれません。

しかし、3年間を「会社からのお金を頂いて教育を受ける投資期間」だと考えると、投資期間が終了した後、会社に還元する期間を経てから、キャリアアップの道に進むのが、若い方にとっては良いと考えます。

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