「新卒が3年で辞める」のは本当に悪いことなのか キャリアアップの環境整備が不可欠な時代だ

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一方、企業側は何を努力すべきでしょうか? 人材がわずか3年で離職すると当然不利益になります。そこで、少しでも優秀な人に長く働いて頂くための努力をする必要があります。

まず多様化する社会に先駆けて、働き方、評価制度、報酬制度を柔軟に考えていくことが求められます。さらに、「正社員」「8時間労働」「月~金勤務」のような決められた働き方が望まれる世の中ではなくなります。柔軟な働き方を取り入れ、主婦の方、シニアも含めて、活躍できる場を作ることが不可欠になってきます。評価や報酬の仕組みも、横並び給与体系から、多様化を受け入れた報酬、評価制度に変える必要があります。そして、先に体制を作った会社にこそ、人が集まり、若い人が長く働く会社になっていくでしょう。

企業もキャリアップを支援する努力を

教育に関しても企業努力が必要です。

「この先、この会社で成長がない」と思うと、キャリアアップを求めて人は転職して行きます。会社での価値観教育や、ビジネスマナーなどの態度教育、スキル教育を整えて行けばいくほど、働く方々は仕事を通じた成長を感じることができます。生産性を上げるためにも会社の中でキャリアアップや、リスキリング、成長ができる教育が重要です。

大学などの高等教育において、社会に役立つキャリア観や人生観、社会観を学ぶ授業はまだまだ少ないと思います。だからこそ、企業の果たすべき役割と責任はますます大きくなっていきます。

またサステナブル、SDGs、ESG、パーパス経営など、働く人からだけではなく、社会からも企業の存在価値は求められていきます。企業は働く人や社会に対してさらに、意義を持つ時代になるでしょう。

昔と比べると厳しい時代ですが、人にも企業にもチャンスがあります。これまで日本は安定が重視されていたため、反対に新しい挑戦はしづらく、企業経営も倒産したら二度と起き上がれない状況でした。しかし 今は、日本の閉塞感を打破するため、「新しい挑戦」をする人が求められています。

学歴もひと昔前に比べて重要視されなくなってきており、中学生も起業ができる面白い時代になっています。高卒生にとっても挑戦がしやすくなっています。

さらに新しい挑戦をする人を増やすには、社会、行政、学校、民間企業で「失敗は許される」と教える必要があります。高校生は情報が少なく、大学生にもまだまだ20世紀の「4年大学に入って良い企業へ就職する」という固定観念が残っています。失敗しても大丈夫だと知っているだけで、何か挑戦しようという若い方は増えるのではないでしょうか。

今後、経済の基盤となる生産労働人口(15歳~65歳)が急激に減っていきます。生産労働人口の実態は22歳以降が多く、高卒で学歴を一旦終えて就職をすれば、今はまだまだ少ない18歳~22歳の層を増やす事が可能です。

私学文系では学費が約500万かかり、奨学金を借りる人が約半数いるのが実態です。実は、学費500万円を支払わなくても勉強をさせてくれる場があります。それが、企業であり社会です。

昼間は働き、夜はオンラインで勉強することもできます。また、無料で学ぶことも可能になっています。早くに社会に出ることは、本人の人生にとっても、早い段階でキャリア能力がつき、キャリアアップや経済的な豊かさにもつながります。学び直しや、大学に行く場合も目的を持って行くことが必要ではないでしょうか。

社会現場で働きながら、お金をかけずに勉強し、キャリアアップして行く、そんな感覚を持つ人が増える時代が待っているのではないでしょうか。

佐々木 満秀 ジンジブ代表取締役

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ささき みつひで / Mitsuhide Sasaki

大阪府出身。高校卒業後、運送会社に就職。21歳でトラックを購入し、個人事業での運送業を始める。23歳で求人広告会社に就職、営業部長を経て常務取締役に。1998年、同社の倒産をきっかけに起業し、株式会社ピーアンドエフを創業。株式会社ジンジブを設立後、高卒就職を支援するサイト『ジョブドラフト』を開始。自身の就職活動の原体験をきっかけに、高校生の将来の選択肢を拡げるため全国へ就職、採用、教育支援サービスを広げている。

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